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         第42回 
          自然美人より人工美人 
        韓国は儒教の国と聞いていた。 
          儒教で何より優先される徳目は「孝」である。 
          《身体髪膚これを父母に受く、 
           あえて毀傷[せざるは孝の始めなり》 
          とは「孝経」の一条だ。 
          その孝道もあらかた変質してしまったのか、 
          韓国では男も女もこぞって整形する。 
          国をあげて身体髪膚を傷つけることに血道を上げているのである。 
        年頃の女性の4人に1人は整形経験があるという韓国では、 
          美しく変身することはステータスのひとつに数えられている。 
          女性の社会進出が比較的遅れているため、 
          韓国では美人でないと就職にも結婚にも恵まれない。 
          だから親も恋人も整形を奨めるし、 
          見合いの席であらぬ疑惑をもたれぬよう、 
          母子ともに整形し、 
          みごと「証拠隠滅」を図ってしまうケースもある。 
          そのため「見合い写真はいっそ小学生のころの写真にすべきだ」 
          とする笑えない議論も出てきている。 
        日本でも韓国でも、整形の定番といえば二重まぶたと高い鼻だ。 
          整形先進国のブラジルやアメリカが 
          脂肪吸引やシワ取りが主であるのに較べ、 
          いかにも東アジア的といえるだろう。 
          ひと昔前まで、といっても平安時代や江戸時代の話だが、 
          絵巻物や浮世絵などに描かれている美人は 
          引き目鉤鼻と相場が決まっていた。 
          今の世であれば、純愛ドラマのヒロインには 
          決して選ばれそうにないご面相である。 
        一方で、室町時代の御伽草子には 
          「女の目には鈴を張れ」とあり、 
          女は目が鈴のように丸くて大きいほうが愛敬があっていい、 
          とされていた。 
          つまり現代のように、 
          女は目もとパッチリのどんぐり眼が一番とされていたのだ。 
          引き目にすれば表情がとらえにくく、 
          かえって雅で奥床しい雰囲気を醸し出すことができる。 
          浮世絵で多用されたのはそのため、 
          とする説もあるから、 
          長く日本的美人の典型とされた引き目鉤鼻美人は、 
          実は便宜上の作られた美人であったのかも知れぬ。 
        西洋女性を美の基準にした昨今の整形狂騒劇を見ると、 
          これこそ敗戦の惨禍かと暗然たる気分にさせられたものだが、 
          昔から日本のオノコは 
          目もとパッチリのメノコが好みだったことがわかると、 
          なにかと批判の多い「プチ整形」も、 
          実は日本女性の伝統的な美形への 
          回帰本能なのかも知れない。 
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