第196回
税金をめぐる事情も時とともに大きく変わる
『邱永漢のゼイキン報告』のまえがきの最後の部分です。
この本のオリジナル版『ゼイキン報告』が出版されたのは
昭和41年のことで、改訂版としてこの『邱永漢のゼイキン報告』が
出版されたのは昭和57年のことです。
それから20年の年月が経っています。
以下に記述されていることは「そんなことがありましたかねえ」
と思われるような事柄ではないかと思いますが、
この20年の間にどんなことが起こったか
また、いまも未解決なまま問題となっていることがどんなことか
など考える材料になるのではと思い、転載します。
「十年一昔というが、十年たってみると、世の中はがらりと変わる。
税法もその例外でなく、私がこの本を書いた当時は、
企業の自己資本の充実がさしあたりの目標であったが、
十年たつと、石油ショックが起こり、
土地の暴騰を防止するために国土法ができあがり、
土地の譲渡所得税に重加算税付加したりするようになった。
さらに十年たつと、今度は国家財政全体が大赤字に悩むようになり、
毎年の予算の3分の1を借金で賄うようなテイタラクになったから、
一方において行政改革を推進すると同時に、
他方でどうやって新税推進するか、
財政当局がしきりにチャンスを伺うようになった。
しかし、増税に対する抵抗も根強く、
大型消費税のアドバルーンをあげただけで、
大平前首相が選挙で大敗するという記録も残っている。
最近の事例でみれば、
グリーン・カード制の実施をめぐる攻防戦もその一つで、
すでに実施の当日まで決まったものを、
新聞の報道通りに延期するのか、また改廃するのか、
微妙な段階に立ち至っている。
いま日本の国を荒れ狂っているのは、貿易摩擦の旋風で、
いつの時代にも、日本に大きな変革をもたらすのは外圧だから、
この『黒船』の出現は日本の国の産業界の合理化、
わけても農業の合理化にとっては
またとないチャンスであろう。
この機会に、食管法の改廃が行われて、
続いて、国鉄や健康保険にメスが入れば、
ピンチにおちいった日本の国家財政も
息を吹き返すきざしが見えはじめているのではないだろうか。」
(『邱永漢のゼイキン報告』まえがき)
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