| その後夢中で会社の設立準備をする中で、ふと「あれっ、仕事を一生懸命するのはいいけれど、
 そういえば、成都で流行っているレストランに行ったこともないな。
 レストラン経営をするのにこんな基本的なこともわかってないようでだめだな。」
 と気づきました。
 気づくや否や、成都のおいしい店50件リストを作成し日々それらの店をまわることにしました。
 まあ、市場のことは市場に聞けということです。
 さて、市場調査となると、元コンサルタントの血が騒ぎます。習慣的に調査のフレーム(枠組み)づくりから始めました。
 つまり、仮説としてレストランの成功要因を細分化し、
 それらの要素一つ一つの重要度に対し点数を配分し、
 最終的に成功要素を100点化するという
 オーソドックスな、そして我ながら綺麗な分析フレームを完成させました。
 私は意気込んで流行っているレストランを回り始めました。レストランを数件回った後、さらに分析フレームに調整を加え、
 今度は成都の一般的な収入水準の消費者50人を対象にアンケート調査を行い。
 「消費者の立場から見た繁盛するレストランの成功要因」に、
 自分なりにするどいメスをいれたつもりでした。
 恥ずかしながらその当時の分析結果をご披露するとこんな感じでした。  (クリックで拡大)
 ここまで分析して「なるほど成都の人は"うまくて""量が多くて""サービスがいい"店が好きなんだな。」
 と分析結果をまじまじと眺めていると、急に興ざめする自分に気づきました。
 そして、こう自分でつぶやいたのでした。
 「おいおい、こんなあたり前のことを自分で発見して喜んでなにやってんだ?」
 「・・・。」
 分析が間違っているわけではありませんでした。成都の消費者を理解する上で、どこに重点を置くべきかという意味では、
 まったく意味のないものでもありませんでした。
 しかし、私がこれからやろうとしているのは、成都ではまだほとんどない焼肉市場の開拓でした。
 そう、そこにまだ市場はないのでした。
 つまり、新しい製品やサービス、価値を市場に創造する時には、
 その需要の強さや成功のポイントを市場に聞いてはいけないのです。
 いや正しくはそれらを事前に検証するツールがないわけではないのですが、
 経営者がそういったものに過剰に依存してはいけないのです。
 あくまで事業家としてのカンとセンスに依存してそれを市場に打ち上げないといけないのです。
 そもそもこの市場は、お金儲けの神様が「ここならいいよ。それでおやんなさい。」と言った
 お墨付きの市場なのですから。
 こんな分析をするぐらいなら、地元の友人でもつくって一緒に酒飲みながら、彼らの肌感覚を理解することのほうがよっぽど意味があるのです。
 その分析結果をゴミ箱に突っ込んで以来、
 私はオープンまでこういった概念的な調査をすることをすっかりやめてしまったのです。
 コンサルタントから事業家への脱皮が必要だと強く自分に言い聞かせた瞬間でした。
 |