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   2007年6月11日(月)更新
12. 「50元(約750円)ぐらいで喜んでもらえる店がいいんじゃないの!?」

ダメ押しは、次の日に行った北京ダックの店でした。
総勢12人で行った店の中国式の丸テーブルには、
これでもか!これでもか!という量の皿が並べられ、
先生も「ここの北京ダックは北京よりもおいしいんじゃないの。」
とご満悦の様子でした。
清算を済ませると邱先生が「今日はいくらだった?」と問うと
「12人で600元(約9000円)です。」との答え。
つまり一人50元(約750円)の換算である。

先生はにこりと笑い私の方を向くと、
「キム君、これぐらいの価格帯でお客さんを喜ばせる店を作ったらどう。」
とおっしゃるではないですか。

「韓国式でよい素材を使い、地元の優良な顧客を狙う高級店をやる」
という目論見が、
「日式ベースで客単価50元ぐらい、
たらふく食べられてなおかつお客さんが喜んで帰る店。」
というコンセプトにすり替わっていました。
焼肉の素材はご存知のとおり基本は牛肉。
牛肉の価格は国際価格を基準に大きなふれ幅はなく、
いくら中国の物価が安いといってもおいしい牛肉は日本並みに高いのが事実です。

「いくらなんでもメチャクチャ言わんでくださいよ。」と言う声を抑えるのに、
片手ひとつで口を押さえるのでは間に合わないぐらいでした。

もちろん、自分が責任者となって事業を進めるのですから、
なんでも邱先生の言うことを
鵜呑みにする必要はないことははじめからわかっていました。
しかし、私には先生の一言一言を慎重に考慮する必要と、
そうすることが自分のためにもなることを経験上理解していたのです。

サラリーマンをやったことのある人ならわかると思いますが、
時に上司の指示は絶対です。
私が前職で身をおいていたコンサルティング会社は
封建的な会社ではありませんでしたが、
上司がメチャクチャなことを言い出すことが多々あったものです。

ちなみに、私がこの会社の入社時の面接で聞かれた質問は、
「キムさん。クライアントにもし、
"日本には割り箸が何膳あるのか5分以内に教えてください。
"と言われたらどうしますか?」というものでした。
(読者の皆さんよかったらこの質問にお答えください。
お礼(!?)に私の当時の回答を返信いたします。)
まあ、普通の感覚からすると
「そんなアホなこと聞かないでくださいよ。」といったところですが、
まあそういう世界だったわけです。

しかしながら、メチャクチャなリクエストを何度も経験するうちに気づいたのは、
「"エライ人"のメチャクチャには必ず意味がある。」ということでした。
幸い私は若くして日本の先端を走る企業のトップにたくさん会ってきましたが、
みな結構メチャクチャを言うものです。
しかし、私はその経験からトップのメチャクチャの合理性や先見性に対する
一種の"カン"のようなものが働くようになっていました。

だから、「750円ぐらいでお客さんが喜んで帰る焼肉屋づくり。」というお題にも、
先生の言葉には必ず意味があると確信したのでした。
万が一、そこに意味がなかったら
自分のボス選びの目がなかったということであきらめもつきますし…。

こうして私のメチャクチャな店づくりは始まりを迎えたのでした。


2007年6月11日(月) <<前へ  次へ>>