| “1講演約100万円?”間違えているかも知れませんが、
 私が先生の講演料について風の噂に聞いた金額でした。
 (真相については先生に確認しておりませんが。)
 そこで私が考えたのは、
 「10分約15万円だし、お忙しい先生だから、
 おそらく30万円(=20分)が限度だろうな。」
 と変な計算を先にし、渋谷の邱永漢事務所に着いたのでした。
 コートを脱ぎ、エレベーターをあがったすぐそこが事務所でした。先生の応接室に座り5分もすると、先生がゆっくりと入ってこられました。
 「あなたがキムくん?」と聞かれると早速お話をされはじめました。
 結果、200万円=2時間の間、ホテルの話、コーヒーの話、イトーヨーカドーの話、ありとあらゆる話をされ、ぐいぐいと先生の話に引き込まれ、
 自分のことを紹介する間もなく、あっという間に2時間が過ぎました。
 すると最後にふと沈黙が訪れ、先生はぼそっと
 「まあ、君ならできるかも知れんな。」とつぶやかれたのでした。
 正直に言うと、2時間のあいだ合計2分も話す時間のなかった私は、どうやってそう判断されたのか不思議で仕方なかったのですが、
 その後先生は
 「まっ、もし本気なら現地みてらっしゃい。」
 とおっしゃったので、迷うことなく
 「それでは、来週にでも見てまいります。」と答えました。
 もちろん、当時はサラリーマンですから、
 そんなに簡単に時間の都合をつけられるわけでもないのですが、
 そこにチャンスがあるのであれば、つかまない手はない。
 そのあと、
 「先生は次回いつ成都に入られますか?」と聞いたところ
 「しばらく行く予定はないね…。」とちょっとそっけない答えだったので、
 忙しい先生の手を煩わせることもないと思い、
 「では一人で見てまいります。」と答えたところ、
 先生は軽く天井を見上げ、胸の中から手帳を取り出され
 「・・・。2月25日だったら一緒に言ってあげてもいいな。」と答えられたので
 「では2月25日にご同行させてください。」と即答したのでした。
 その後、秘書の方をお呼びになり、スケジュールの調整と今後の連絡先等を伝えられ終了したのでした。
 外に出ると一月の少し冷たい風が、私の紅潮した頬に気持ちよく感じられました。 |