第1483回
明暗が分かれた2人の共産党幹部
共に今年秋の中国共産党大会で
中央政治局常務委員会入りを目指し、
永遠のライバルと言われてきた2人の共産党幹部の明暗が
はっきりと分かれました。
「明」の方向に進んでいるのは、
広東省の汪洋党委書記。
同氏は先日開かれた広東省全省社会工作会議で、
政府と社会の機能を分けて、
「小さな政府、大きな社会」を目指すことを指示しました。
具体的には従来、社会に対して
何でもかんでも関与してきた政府の機能を縮小、
個々の民間活動にはなるべく直接介入せずに、
社会の自治機能を活性化させなければならない、
としています。
先日お話した広東省の「烏坎モデル」の際にも、
汪洋氏は腐敗幹部を追い出した
村の自治組織の長をそのままトップに据えて、
住民に自治をさせることを決断しました。
社会の運営は民主的な選挙によって選ばれた住民の代表や
民間企業によって自治をさせ、
政府は民間の力だけでは手に負えない
社会的な矛盾のみを解決する。
そして、民間活力の利用によって中国を高所得国に押し上げ、
政府の機能縮小により腐敗を根絶する。
これからの新しい中国のあり方を、
広東省という一地方で実験しようとしている汪洋党委書記。
同氏に対しては、共産党中央も
「次世代の指導者の1人にふさわしい人物」
と評価しているであろうことから、
今年秋の中央政治局常務委員会入りは
ほぼ確実と言ってよいのではないでしょうか。
一方、「暗」の方向に進んでしまったのは、
重慶市の党委書記だった薄熙来氏です。
ことの発端は、同氏の右腕として
重慶市の打黒(だーへい、暴力団取り締まり)で
辣腕を振るった王立軍副市長に
汚職疑惑が持ち上がったことでした。
自らに累が及ぶことを恐れた薄熙来氏は
王立軍氏を解任したのですが、
王立軍氏が隣の四川省成都にある米国領事館に駆け込み、
薄熙来氏は同氏を奪還するべく
パトカー70台で米国領事館を包囲、
それを聞いた胡錦濤国家主席を
激怒させたと言われています。
その後、薄熙来氏は何事もなかったかのように
党委書記の仕事を続けていたのですが、
先月の全国人民代表大会(全人代)の終了と共に解任され、
あの温厚な温家宝首相が、非常に厳しい口調で
同氏の政治手法を批判する声明を出すに至りました。
これにより、同氏は中央政治局常務委員会入りどころか、
政治生命は完全に終了、
手が後ろに回ってしまう可能性すら出てきました。
薄熙来氏の政治手法は、
打黒や唱紅(ちゃんほん、革命歌合唱)など
市民が喜ぶ政策を打ち出して民衆を煽動し、
市民の圧倒的な支持を得て、
それを背景に大きな権力を握ろうとする
日本の小泉元首相のようなものでした。
温家宝首相はこの同氏の政治手法を、
「文化大革命の誤りの「遺毒」(残された有害な思想)」
と評しました。
ますます大きくなる民衆のパワーを
利用しなければいけない、という点では、
2人の考え方は全く同じでした。
しかし、そのパワーを
新しい中国を作るために利用するのか、
それとも、自らの出世のために利用するのか、というところで、
2人の明暗が分かれたような気がします。
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