第1440回
またもやネット民主主義の勝利!

私の携帯電話には毎日、
短信(どぉあんしん、ショートメッセージ)で
天気予報が送られてきます。

この天気予報には天気、温度、風速の他に、
汚染指数という項目があります。
これは北京市政府が発表する市内の大気汚染の度合いを
1級から5級に等級分けしたものなのですが、
時々、晴れているのに空が真っ白で、
明らかに大気汚染が甚だしいにも関わらず、
3級の「軽微の汚染」だったりすることがあります。

特に、今年10月末から11月初めにかけては、
北京の街は連日、スモッグによる真っ白な天気が続いたのですが、
北京市政府は「軽微の汚染」という測定結果を出し続けました。
これに対し、中国紙・中国青年報が行ったネット調査では、
約70%の市民が
「北京市政府の測定結果は、自分の実感とずれている」
と回答しています。

こうした状況に業を煮やした北京のアメリカ大使館は、
独自の測定を開始して、その結果を公表、
「北京の大気汚染は危険な状態にある」と発表しました。
アメリカ大使館が行った独自の測定は、
肺の奥深くに入り込み、肺がんやぜんそくなどの
肺疾患をもたらすとされる直径2.5マイクロメートル以下の
粒子状物質「PM2.5」を観測していますが、
北京市政府が行っている測定は
それよりも大きな「PM10」を観測しているので、
大気汚染の危険度を正確に表しているとは言えない、
ということなのだそうです。

このアメリカ大使館の測定結果は、
瞬く間に微博(うぇいぼー、マイクロブログ)で広がり、
網民(わんみん、ネット市民)たちは
「北京市政府は役に立たない測定方法を採用して、
市民の健康を脅かしているのではないか」とか、
「役人が大気汚染改善対策の成果をアピールするために、
自分に都合の良い測定方法を選んでいるのではないか」
などと騒ぎ始めました。

こうした事態を受けて、温家宝首相は
「我々は環境観測基準の改善を重視し、
国際基準へ徐々に近づけなければならない」
という談話を発表、
ネットの民意が基準厳格化に及び腰だった
中国政府を動かした形になりました。

またもやネット民主主義の勝利。

昔の中国共産党であれば
「これはアメリカの陰謀だ。
人民は米帝の策略に踊らされることなく、
絶対的に正しい中国共産党の測定結果だけを信じなさい」
と言い切ったでしょうが、今、そんな態度を取れば、
人民の中国共産党に対する不信感は頂点に達し、
中国の国内情勢は不安定化することになるでしょう。

来年、中国では10年ぶりの政権交代が行われます。
中国共産党は既に集団指導体制に入っていますので、
国家主席が替わっても中国政府の政策には
大きな変化はないものと思われます。

新政権にはぜひ引き続き
このネット民主主義重視路線を継続して頂いて、
中国を混乱のるつぼに陥れることなく
民主化のソフトランディングを
図って頂きたいものだと思います。





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2011年12月28日(水)

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