| 第1329回中国政府が直面する「前門の虎、後門の狼」
 中国のインフレが止まりません。 中国国家統計局が発表した今年2月の中国の消費者物価指数(CPI)は
 前年同月比4.9%の上昇と1月と同じ上昇率を示し、
 中国政府の今年のインフレ抑制目標である4%を
 上回った状態が続いています。
 特に食品価格は前年同月比11.0%の上昇とひときわ高い伸びを示しており、
 一般庶民の生活を圧迫しています。
 こうしたインフレに対し、中国政府は昨年以降4回にわたる利上げや
 預金準備率の引き上げで
 市中の流動性を減少させようとしています。
 しかし、一方で温家宝首相は、
 インフレ高進と景気減速が同時に進行する
 スタグフレーションを最悪の事態であるとして
 回避に努める考えを示しており、
 中国政府は「角を矯めて牛を殺す」ことのないよう、
 景気の動向に配慮しながらインフレを退治する、
 という難しい舵取りを迫られています。
 中国政府による度重なる利上げや預金準備率の引き上げといったインフレ対策が、
 ほとんど効果を示さずインフレがどんどん進む原因は、
 ひとえに人民元のレートを安く抑えるための
 為替介入にあります。
 上海の銀行関係者は「せっかく金融を引き締めても、
 元高を抑えるための元売り・ドル買いの
 為替介入により大量の元が放出され、
 効果を薄めててしまっている」と語っています。
 同じ中国政府が一方では市中の元を吸い上げ、
 一方では元を放出しているので、
 いつまで経っても市中の流動性は減らず、
 インフレが止まらないのです。
 中国政府がインフレのリスクを冒してまでも元高を防ぎたい理由は、
 いまだに国内総生産(GDP)の30%以上を稼ぎ続ける
 輸出産業を守らなければならないからです。
 元高を抑えるための介入を止めれば、
 インフレは止まるかもしれませんが、
 元高で競争力を失った国内の輸出産業は
 壊滅的な影響を受け景気は後退、
 たくさんの失業者が生まれて
 国内情勢が不安定になる可能性もあります。
 輸出産業を守るために元高を抑えれば、インフレが進み生活が苦しくなった
 一般庶民の不満が高まり国内情勢が不安定化する。
 逆に、インフレを抑えるために
 元高を抑えるための介入を止めれば、
 輸出産業が壊滅的な影響を受け、
 たくさんの失業者が生まれて
 これまた国内情勢が不安定化する。
 「前門の虎、後門の狼」。中国政府は前に進んでも後ろに退いても、
 どちらにしても国内情勢が不安定化する、という
 大きなリスクを抱えながら、経済運営をしているのです。
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