第1271回
中国政府が極度にインフレを恐れるワケ

北京のスーパーで目撃した白菜争奪戦。

しかし、青果売場をよく見ると、
奪い合いが起こっているのは白菜だけで、
他の野菜は陳列棚にたくさん置いてあります。

野菜を食べたければ他にもたくさんあるのに、
なぜ白菜だけが争奪戦になっているのか?

それは、価格が高騰していると言っても、
白菜は他の野菜に比べて、
まだまだずっと割安だからです。

私が北京に来た15年前、冬になると北京の街では、
家の前に俵のように積み上げられた白菜が
そこかしこで見られました。
これは、当時は中国国内の
野菜の流通網がまだ発達しておらず、
冬の間、中国南部から他の野菜が
運ばれてくることもなかったため、
みなさん、秋に大量にまとめ買いした白菜を
家の中には入らないので家の前に積み上げて、
冬の間、それをちょっとずつ食べていたのです。

現在では野菜の流通網も発達し、冬でも北京のスーパーには
白菜以外の野菜がたくさん並ぶようになりましたが、
北京の老百姓(らおばいしん、一般庶民)にとって、
白菜以外の野菜は今でもやはりまだぜいたく品であり、
冬の間にビタミンや栄養を補給するために毎日食べる
メインの野菜にはなり得ないのです。

老百姓の人気が安価な白菜に集中しているのは、
最近のインフレによる物価高も影響しているように思います。

10月の中国の消費者物価指数(CPI)は、
前年同月比で4.4%の上昇と2年ぶりに4%を超え、
中国政府が掲げている3%以下という今年の目標を
大幅に上回りました。
中でも特に、9月下旬以降の台風や大雨の影響で、
中国沿海部各都市の生鮮野菜の価格は
前年比で30-40%上昇しており、
老百姓の生活を圧迫しています。

中国政府は現在「角を矯めて牛を殺す」ことのないように、
景気の動向には細心の注意を払いつつも、
預金準備率の引き上げ、
利上げなどあらゆる手段を駆使して
インフレを抑えようとしています。

北京のスーパーの青果売場で起こった白菜の奪い合いが、
やがて中国全土に広がり、
食品価格の高騰で十分な食べ物を買えず、
お腹を空かせた数億人の老百姓の怒りの矛先が
中国政府に向かう...。

中国政府は自らが最も恐れている
こうしたシナリオを現実のものとしないために、
今後、どんな手段を使ってでも
インフレを抑えていくものと思われます。


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2010年12月1日(水)

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