第1103回
日本人の「1億総草食化」
先日、日経ビジネスで
堀場製作所の堀場最高顧問が書かれた
「価値観革命の衝撃」というコラムを読みました。
堀場さんによれば、今、日本の消費者の間では
価値観の急激な変化が起こっており、
多くの消費者が、ブランドなど表面的なものよりも、
その製品の持つ本質的な価値を重視するようになっている、
とのことです。
高級ブランド品を身に着けて高級車を乗り回すよりも、
不要なものはなるべく買わず、
買うにしてもコストパフォーマンスの良い製品を選べる
賢い消費者であることの方が「カッコいい」。
日本ではこうした価値観を持つ人が増えているため、
「ユニクロ」が独り勝ちし、
「プリウス」が爆発的に売れている、
と堀場さんは分析しています。
この「価値観革命」の話は、
私にとっても文字通り「衝撃」でした。
私はバブル経済真っ盛りの時代に社会人になり、
バブル崩壊後ほどなくして中国に来てしまいましたので、
日本人にこんな価値観の変化が
起こっているとは知りませんでした。
もちろん、平成不況で人々の収入が減り、
「激安」が消費のキーワードになっていることは
日本のメディアの報道で知っていましたが、
それでもそれはおカネが少なくなったから
仕方なくガマンしているだけであり、
本当はみんな、やっぱりお金持ちになって
贅沢な暮らしがしたいのかと思っていました。
しかし堀場さんがおっしゃる
「賢い消費者であることの方がカッコいい」
という価値観の中には、
高級ブランドや高級車にあこがれる気持ちは
感じられません。
一方の中国は、高度経済成長の真っ只中。
「おカネを儲けて豊かになれば幸せになれる」
という価値観がまだまだ健在です。
彼らは一生懸命働いて、おカネを儲けて、
より贅沢なものを買おうとしますので、
消費行動も非常に分かりやすいです。
私の友人の中国人社長も、会社が大きくなるたびに
「ベンツ」→「ポルシェ」→「ロールス・ロイス」と
まるで出世魚のように乗る車が変わっていきました。
現在の日本の価値観の変化は、虚飾から実質へ、
日本人のものの考え方が更に一歩成熟した、
と捉えるべきだと思います。
「ムダな消費をせずにシンプルに暮らす」
というライフスタイルは、
地球環境や資源節約の観点からも、
とても良い考え方だと思います。
しかし、そうした価値観の下では、
幸せな人生を送るのにそれほどたくさんのおカネは
必要でなくなります。
このため「会社で出世してエラくなってやろう」とか、
「起業に成功して大金持ちになってやろう」
というような人が減る可能性もあります。
日本では恋愛に積極的ではない若い男性を指す
「草食男子」という言葉が流行っているようですが、
「金持ちになってやろう」という
強烈な欲求を持つ人が減って、
日本人全体が「1億総草食化」してしまうと、
社会全体の活力が失われてしまう恐れも
あるのではないでしょうか。
金儲けに貪欲な「肉食系」の中国の人たちを毎日見ていると、
日本の未来がちょっと心配になってしまいます。
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