第1079回
お客はそんなにエラいのか?

私が13年前に中国に来て買い物をしたときに、
一番驚いたのはモノを売る人が
非常にエラそうだったことです。

私が物心付いたときには、
日本は既に物資が豊富になっており、
買う人=エラい、売る人=エラくないという図式が
常識として頭に定着していました。
実際、日本ではモノを買って店員に
「ありがとうございました」と言われることはあっても、
カネを払ってモノを買ったのに店員に
「ありがとうございました」と言う人はあまりいません。

しかし、中国に来て買い物をしに行ったところ、
店員が「ありがとうございました」と言うどころか、
私がありがたくモノを買わせて頂くような状態だったのです。

まず店に入ると、
店員たちは私が店に入ってきたのを全く無視して
ひまわりの種を食べたり、
店員同士でおしゃべりをしたりしています。
そして恐る恐る
「この商品には他の色はありますか?」と訊くと、
店員はその商品をよく見もせずに
「没有(めいよう、ないよ)!」と言い放ちます。

そして、気に入らない色ですが
仕方なくその商品を買いたい旨を伝えると、
同僚と楽しそうにおしゃべりをしていた笑顔は
一瞬のうちに無表情になり、
ノロノロと面倒くさそうに書いた伝票を私の方に投げて、
収銀台(しょういんたい、レジ)の方を
あごでしゃくって示します。
「さっさとカネを払ってこい」という意味です。

おカネを払ってハンコを押してもらった伝票を持って
売り場に戻ってくると、店員は伝票をひったくり、
商品をポーンと投げて寄こし、
元の笑顔で同僚とのおしゃべりの輪に
戻っていくのでした。

これはまだまだ物資が少なく、
働いても働かなくても給料が変わらない
社会主義時代の名残が残っていたせいだと思われますが、
「お客にこんな態度を取ってもいいんだ」
という事実を知ったことは、
お客天国の日本から来た私にとっては
大きなカルチャーショックでした。

それから13年間の経済発展により、
今では中国も物資があふれんばかりに豊富になり、
それに伴いカネを払うお客の地位も
ずいぶんと向上してきました。

それによって中国の店員のサービスレベルも
昔と比べると随分向上し、
これはこれで非常に喜ばしいことではあるのですが、
一方で「カネを払えばお客なんだから、何をしてもいいんだ」
というような勘違いをする客も見かけるようになりました。

先日もお粥屋さんに行ったときに、
ものすごくエラそうな態度で
店員にあれこれと指示をするお客を見かけました。
彼が食べているのは、
たった5元(75円)のお粥なのにも関わらずです。
いつも会社で上司やお客さんにヘコヘコしている分、
自分がお客になった時には
ここぞとばかり発散するのでしょう。

中国が13年前の売り手市場に戻ってほしいとは思いません。
しかし、買い手市場であることをよいことに、
買い手が売り手を見下すような社会も健全とは言えません。
売り手と買い手が双方とも対等の立場で、
お互いがハッピーになるような売り買いができる社会、
というのはできないものなのでしょうか。


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2009年9月9日(水)

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