第1034回
「記号」としてのマンションと住宅難
今、北京ではこれでもかというぐらい
たくさんのマンションが建設されていますが、
そうしたマンションは一般庶民には手が届かないような
高級マンションばかりです。
昨年からの世界的な金融危機による景気の減速で、
中国国内の不動産価格も下落してきてはいます。
しかし、下落したと言っても、
今年2月の中国70都市の平均不動産価格は
前年同月比わずか1.2%の下落。
不動産価格がぐんぐん上がった後の1.2%の下落ですから、
実際には「高止まり」という状態です。
前回、東四環路付近の新築マンションの価格は
2LDKの100uで120万元(1680万円)前後、
というお話をしましたが、
月給が3000元(42000円)の一般的なサラリーマンにとって
120万元は年収の33年分。
日本では「住宅ローンを借りてマイホームを買うなら
年収の5倍以内で」と言われていますが、
年収の33年分では月給を全てローンの返済に充てても、
利子さえ払いきれず元本がどんどん増えていく、
という恐ろしい状態になります。
北京では普通のサラリーマンが
市街地にマンションを買うことは、
自らに無期懲役刑を課すようなものなのです。
このため、北京の普通のサラリーマンが
マイホームを買いたいと思ったら、
築数十年のボロボロの中古団地を買うか、
通勤に片道2時間近くかかるようなとんでもない郊外の
安い新築マンションを買うしかないのです。
こうした都市部の低所得者層に安価な住宅を供給することは、
中国政府も国の重点課題として捉えており、
今年3月の全人代でも景気刺激策の一環として
低所得者向け住宅政策の充実に
493億元(6900億円)の財政支出をすることが採択されました。
日本でも1960年代の高度経済成長期には、
都市部に人口が集中し住宅難が発生、
日本政府や自治体は住宅公団や住宅供給公社を設立して、
安価な団地を大量に供給しました。
しかし、中国の場合は、
民間の不動産開発会社に補助金を出して、
販売価格や賃貸価格を低く抑えさせる
という方法を採っているようです。
この対比から当時の日本政府は
今の中国政府よりもずっと社会主義的な
ビッグガバメントであったことがわかります。
今まで中国のマンションは人が住むところというよりは、
金持ちが値上がり期待の投機をするための
「記号」として扱われてきました。
極端な話、値上がりするのであれば、
別に人が住めなくても、
貝殻でもライター石でも何でも良かったのです。
そうした資産価値の「記号」としての位置付けが、
建設されるマンションをどんどん高級化させ、
マンションを一般庶民には
手の届かない存在にまで押し上げました。
そして、金持ちが投機のために買ったマンションは
空室のまま値上がりを待って放置され、
一方の一般庶民は住むところがなくて困る、
という矛盾した状態が発生しました。
今、中国政府がするべきことは、
マンションの存在を「人が住むところ」という
本来の状態に戻すことなのではないかと私は思います。
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