第1001
中国政府が「保八」にこだわるワケ

世界的な金融危機により、
中国も景気の減速を余儀なくされています。

2008年の中国の経済成長率は9.0%でしたが、
これは年の前半はまだ金融危機の影響が
それほど深刻でなかったためであり、
2008年10-12月に限ってみれば
成長率は6.8%まで落ち込んでいます。

国際機関やエコノミストが予想する
2009年の中国の経済成長率は7-8%まで落ち込む、
というものが多いですが、
国際通貨基金(IMF)に至っては
5%台まで鈍化する可能性もあると警告しています。

これに対し中国政府は、財政、税制、金融など
あらゆる手段を総動員して、
8%成長を死守するとしています。
新聞などでも「保八(ばおぱー、8%成長確保)」という
新語をよく見かけるようになりました。

中国政府はなぜこれほどまでに8%成長にこだわるのか?

それは中国では経済成長率が8%を下回ると、
雇用が確保できず、
失業者が街にあふれて治安が悪化したり、
社会の安定が損なわれるためだと言われています。

では、中国はなぜ8%もの高い成長率を必要とするのか?

日本では今でこそマイナス成長ですので、
派遣切りや正社員のリストラが
大きな社会問題となっていますが、
数年前までの雇用が比較的安定していた時期でも、
日本の成長率はたったの2%前後でした。

日本では2%の経済成長でも雇用が安定するのに、
中国では8%を下回るだけで失業者が街にあふれ出す。
この差はいったい何なのでしょう。

これは私もずっと不思議に思っており、
いろいろと調べてみたのですが、
その理由はどうも
「中国では15-64歳の労働力人口が増え続けているから」
なのではないか、という結論に至りました。

国連の「世界人口予測」によれば、
2000年に8.7億人だった中国の労働力人口は、
2010年には9.8億人になることが予想されています。
10年間で約1億人、平均すると1年間に1000万人の
労働力人口が増えていることになります。

中国政府はこの増え続ける労働力人口に
新たに仕事を作ってあげなければならないのですが、
昨年末、温家宝首相は日中青少年友好交流年の閉幕式の後、
学生100人との座談会で
「8%成長が確保できれば、900万人の就職問題が解決できる」
と語っています。

この2つの事実を考え合わせると、
「「保八」が達成できれば
労働力人口の増加分はだいたいカバーできるが、
それを下回れば1%当たり100万人以上の
失業者が発生する」ということになります。

一方、日本の労働力人口は
1998年から減少が始まっていますので、
理論的にはゼロ成長でも
雇用は確保されることになります。

中国政府にとって「保八」は、
増え続ける労働力人口に仕事を提供し、
社会の安定を維持するために死守しなければならない、
ギリギリのラインなのです。


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2009年3月11日(水)

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