第942回
「発展途上国」中国の政策決定システム
京論壇の東京大学側実行委員会が出版した
「東京大生×北京大生 京論壇
次世代が語る日中の本音」(明石書店)の中で
最も印象的だったのは、
東大生が日本には中国の一党独裁体制を
頭ごなしに否定する人が多いという話をした際に、
北京大生が「(中国では政策決定に際して)
小規模なりとも能力の高い
共産党内部の人の間での議論は行われ、
そこではあらゆる意見が忌憚なく交換される。
これが中国の民主主義だ」
と反論した部分です。
現在の中国共産党の一党独裁体制は、
どう考えても民主主義ではありません。
しかし、最近の中国共産党は、
昔の王朝や共産党中国の初期の頃のように、
絶対的権力を持つ独裁者の一言で
全てが決まってしまうような独裁体制ではなく、
全国7,500万人の共産党員の中から
選りすぐられた中国の頭脳とも言うべき超エリートが、
様々な意見を戦わせた上で
政策を決定するようなシステムに
変わってきているようです。
私たちには公に発表される
議論の結果としての政策しか見えませんので、
中国共産党というのは党員全員が同じ考えを持った
ある意味気持ちの悪い集団かと思っていたのですが、
党内にもいろいろな意見があって、
それらを戦わせた上で政策を決定しているんですね。
ちょっと安心しました。
この中国の政策決定システムは、ごく小規模ではありますが、
国会で国会議員が様々な意見を戦わせた上で政策を決定する
日本の政治システムと本質的にはあまり変わりません。
違うのは意見を戦わせている人たちを国民が選べるかどうかと、
意見を戦わせている過程を国民に公開するかどうかだけです。
エリートを自認する北京大生にしてみれば、
自分のポケットにおカネを入れてくれる人には賛成、
おカネを取っていく人には反対するような
頭の悪い国民が選んだ代表が、
ああでもないこうでもないと議論するよりも、
頭の良い少数のエリートが国の将来まで見据えて
議論を重ねて政策を決定したほうが、
より速くより良い政策を決定することができる。
頭の悪い国民が混乱しないように、
政策決定の過程はむしろ公開しない方が良い、
ということなのでしょう。
民主主義国家・日本に生まれ育った私たち日本人には、
何とも傲慢な考え方に聞こえます。
しかし、戦後の日本も
自民党と官僚の「独裁体制」がなければ、
高度経済成長を経てこんなに豊かな国には
ならなかったかもしれません。
高等教育を受けていない農民が
13億人の人口の内9億人、
全人口の70%にも上る「発展途上国」中国では
現段階ではこれがベストのやり方なのかもしれません。
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