| 第904回中国に骨を埋める覚悟
 私が1996年に北京に住み始めてから早や12年。 周りの人たちからは「このまま中国に骨を埋める覚悟ですか」
 と訊かれることもあるのですが、
 実を言うとそんな覚悟は全くありません。
 北京は愛すべき街ですし、生活していく上でもむしろ東京より住みやすいぐらいです。
 仕事の上でもビジネスチャンスがたくさんありますし、
 日本にいるより前向きで楽しい仕事ができます。
 しかし、その一方でこの国には常に「なにが起こるかわからない」という不安がつきまといます。
 2003年のSARSの蔓延、
 2005年の反日暴動は何とか乗り切りましたが、
 今後、これらよりももっとすごいことが起こって、
 商売を続けることができなくなる可能性も
 ないとは言い切れません。
 そういった意味では、儲けたおカネを全て金(きん)に換えて、
 なにかあったときにはいつでもそれを持って
 逃げられるようにしていた華僑の人たち気持ちは、
 今の私には非常によく理解できます。
 また、そこまで大きな事件に至らなくても、中国政府に「何をされるかわからない」という不安もあります。
 私は中国の今後の発展は信じて疑いませんが、
 中国政府、特に末端の木っ端役人は全く信用していません。
 17年の契約をした当社の倉庫にしても、17年間無事契約が全うされるとは思っていません。
 いつ元ヤクザの郷長がカネのにおいを嗅ぎつけてちょっかいを出してくるかわかりませんし、
 市街地化が進めば土地の所有者である村が色気を出して
 「そこにショッピングセンターを作ることにしたので、
 来月までに立ち退いてください」
 などと言い出すこともありえます。
 ですから、この倉庫は遅くとも最初の2年で初期投資を回収し、あとの15年は契約が続けばラッキーぐらいに考えています。
 もちろん、そうした悪いことは起きないに越したことはないのですが、
 北京に骨を埋める覚悟をしていると、
 何かあったときに判断を誤って、
 せっかく自由に外国に行ける
 日本のパスポートを持っているのに
 逃げ遅れる可能性もあります。
 中国で起業をして成功するためには、中国に骨を埋めるぐらいの覚悟で商売をする必要がある、
 というのは確かにその通りです。
 ただ、平穏な状況が続いているうちに稼げるだけ稼いで、
 イザとなったら全財産を持って逃げる、
 という備えも常にしておく必要があるのではないか、
 と私は思います。
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