第691回
「また中国人にだまされた」
「また中国人にだまされた」。
中国ではいまだにこのセリフを時々耳にします。
中国の人たちの中には、
最初からだまそうと思って人をだます悪人もいますが、
ほとんどの場合、「だました」と言われている本人は、
全く「だました」という意識がありません。
例えば、中国の石炭を日本に輸出するとします。
石炭を積む予定の船が、
既に中国の港に到着しているのに、
肝心の石炭はまだ港に到着していません。
石炭会社に問い合わせると、
石炭は既に列車に積み込まれ、
炭鉱を出ている、と言います。
鉄道局に問い合わせてもらっても、
石炭を積んだ列車が今どこを走っているのかわかりません。
何かの都合で、到着が遅くなっているようです。
船は約束の日に港に到着したにも関わらず、
何日も待たされているわけですから、
その間にも1日数万ドルの滞船料と呼ばれる
ペナルティーが発生します。
このペナルティーを石炭会社に払ってもらおうとすると、
「炭鉱からは期日通りに出ているのに、
鉄道の都合で港への到着が遅くなった。
これは我々の力ではどうにもできない不可抗力だ。
没弁法(めいばんふぁー、仕方がない)」
と言って払ってくれません。
こうなると石炭を買う側は、
船会社に自腹でペナルティーを払わなければなりませんので、
「また中国人にだまされた」ということになるのです。
これは日常生活でも同じです。
中国の人と待ち合わせをすると、
遅れてくる人が非常に多いです。
遅れた理由を聞くと、
「タクシーが見つからなかった」、
「渋滞につかまった」、
「乗っていたタクシーがパンクした」などなど。
要は、自分はちゃんと待ち合わせの時間に
間に合うように家を出たのに、
不可抗力で遅れた、ということになるのです。
こうして考えていくと、
中国の人たちが考える不可抗力は、
私たち日本人が考える不可抗力より
範囲がはるかに広い、ということがわかります。
石炭会社も待ち合わせの人も、
順調に行けば間に合うことを前提に
石炭を発送したり、家を出たりしますので、
何か「不可抗力」が発生すると
すぐに約束の時間に間に合わなくなってしまうのです。
私たち日本人の場合は、
最終結果に責任を持つように教育されていますので、
鉄道が送れそうだったり、
道が渋滞しそうだったりすれば、
数日早く石炭を発送したり、
通常より30分早く家を出たり、
ということをします。
しかし、中国の人たちでこういう意識を持っている人は
まだまだそう多くはありませんので、
「不可抗力なんだから没弁法だろ」と開き直り、
日本人は「また中国人にだまされた」と思ってしまうのです。
こうした意識や常識の違いを乗り越えて
中国の人たちとお付き合いするためには、
ある程度のコストはかかっても、
石炭が全て港に到着してから船を手配する、とか、
待ちぼうけを食わされてもいいように、
待ち合わせ場所を外ではなく喫茶店やレストランにする、
などの工夫が必要なのです。
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