第671回
農村へUターンする労働者

安価な労働力を武器に、
安い製品で世界の市場を席捲し、
「世界の工場」と言われるまでになった中国。
その「世界の工場」を根底から揺るがす動きが
顕著になっています。

「世界の工場」の一大生産基地である広東省では、
2006年、100-200万人の労働者が不足したと言われています。
中国社会科学院によれば、
今年はその労働者不足が更に深刻になり、
少なくとも250万人が不足するであろう、とのことです。

これは中国政府が過去数年にわたって打ち出してきた
農業税廃止などの農村支援政策が効果を上げ、
農村の生活水準が向上したため、
出稼ぎに出る農民が減少したのと同時に、
出稼ぎに出ていた農民も、
故郷へ帰ってしまうようになったからです。

中国沿海部の工場労働者の大半は、
内陸部から出てきた出稼ぎ労働者です。
従来、彼らは「故郷で農業をやっていても食えない」ので、
家族を故郷に残し、右も左もわからない大都市にやってきて、
劣悪な環境の中で一生懸命働いてきたのですが、
「農業で食える」ということになれば、
当然、故郷で家族と一緒に暮らすほうが
良いに決まっています。

そんなわけで中国では今、
沿海部から農村への労働者の
Uターン現象が起きているのです。

労働力が不足すれば、
当然、沿海部の労働者の賃金は上昇します。
2006年、広州市の最低賃金は
前年比53%増の月780元(11,700円)に、
東莞市の最低賃金は同じく前年比53%増の
月690元(10,350円)になりました。

安価な労働力を頼りにした
労働集約的な製品を生産している工場は、
これだけで全く採算が合わなくなって
しまうのではないでしょうか。

労働者の賃金の上昇に、元高、
更には2008年に予定されている外資企業優遇税制撤廃の
トリプルパンチが重なれば、
日本企業にとって、生産・輸出基地としての中国は、
どんどん魅力のないものになっていくことが予想されます。

実際、中国商務省の発表によれば、
2006年の日本からの対中直接投資額は46億ドルと、
前年比マイナス30%の大幅減となっています。
2005年に自動車関連や大手商社の大型投資が実行された反動、
という面もあるようですが、
日本企業が中国よりも生産コストが安い
ベトナム、インドなどに投資をシフトしている、
という事実もあるようです。

中国はゆっくりと、しかし、着実に、
「世界の工場」から
「地球上に残された最大且つ最後の巨大市場」への
脱皮を進めているのです。


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2007年2月5日(月)

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