第640回
働く人を不幸にする、資本主義の究極の姿
先日、NHKの衛星放送でNHKスペシャルを見たのですが、
その内容にゾッとしてしまいました。
その番組は、広東省仏山(ふぉーしゃん)市の
靴製造工場が生産したブーツを、
日本郵船が香港からアメリカまで船や飛行機で運び、
アメリカの大手百貨店・JCペニーで販売されるまでを
ドキュメントで追ったものでした。
JCペニーはジャストインタイム方式を採用して、
在庫を持たないようにしながら、
一方で、各店の売れ行きを見ながら、
品切れを絶対に起こさないようにしているため、
すべてのスケジュールが少しのミスも許されないぐらい
ギリギリに組まれています。
このため、JCペニーから
仏山の靴工場へのオーダーはいつも短納期で、
常に工場の通常の生産能力を超えたものになります。
仏山の工場は従業員を残業させたり、
他のラインの熟練工を連れてきたりして、
なんとか指定された時間内に
オーダーされた数量のブーツを作り上げるのですが、
今度は日本郵船がギリギリのスケジュールで
ブーツを運ぶことになります。
しかし、コンテナ船がしけで遅れたり、
貨物便が突然キャンセルされたりして、
日本郵船は期日通りにブーツを運ぶことができません。
このため、JCペニーは
ブーツがアメリカに到着した後の輸送を、
コストの安い鉄道輸送から、
コストは高いが輸送期間を短縮できる
トラック便に切り替えて、
全米各地の店舗に期日通りにブーツを届け、
なんとか品切れを防ぐことができました、
めでたしめでたし、というお話でした。
この番組は「北京の1匹の蝶のはばたきが、
ニューヨークで嵐を起こす」という例えで知られる、
複雑系カオス理論「バタフライエフェクト」の
実例として紹介されていたのですが、
私の目には「働く人を不幸にする、
資本主義の究極の姿」というふうにしか
映りませんでした。
全然めでたしめでたしではありません。
番組で紹介された働く人たちは、
誰もハッピーに見えません。
JCペニーの調達担当も、仏山の靴工場の従業員も、
日本郵船香港の輸送担当者も、常に時間と闘い、
少しでもミスがあれば、巨額の損失が出る、
という大きなプレッシャーとストレスの中で
仕事をしています。
資本主義の競争は無限です。
しかし、人間の体力や能力は有限です。
どんな仕事にもプレッシャーやストレスはつきものですが、
資本主義の競争を突き詰めていくと、
そのしわ寄せは全て、働く人のところに来ることになり、
その過度な負担は、働く人を不幸にします。
朝の10時から事務所でピンポンをしていても、
月末にはきちんと給料がもらえる
中国の国有企業を見習えとは言いませんが、
人の人生の大きな部分を占める働く時間を、
もうちょっとハッピーに過ごせるような、
資本主義でも社会主義でもない第三のシステムは
できないものでしょうか。
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