第600回
中国で人に道を訊くときには...

中国で道に迷ったときに、人に道を訊くと、
とんでもない目に遭うことがあります。

それは、中国の人たちが嘘つきなわけではなく、
本人は全く悪気はないのですが、
自信を持って全く違う方向を指差したりするからです。

以前、丸紅の北京支店で働いているときに、
私は出張で河南省(はーなんしょん)の炭鉱に
行く機会がありました。

夕方、商談が終わって、
車で省都の鄭州(ぢぇんぢょう)まで帰ろうとしたのですが、
運転手さんが道に迷ってしまいました。

中国の田舎には、日本のように親切な道路標識はなく、
運転手さんも当然、地図など持ってきていませんので、
鄭州に帰るには人に道を訊くしかありません。

運転手さんが何度も車を降りて、
地元の人たちに鄭州に行くには
どちらの方向に進めばよいか訊くのですが、
人によって指差す方向がバラバラで、
いっこうに鄭州に近づく気配がありません。

そんなことをしている間に
辺りは真っ暗になってしまいました。
街頭のない農道を走り続け、
民家の灯りを見つけるたびに道を訊くのですが、
恐ろしいことに、いくら走っても
また元のところに戻ってきてしまいます。

「もしかすると、私たちはキツネに化かされていて、
鄭州には永久にたどり着けないのではないか」と思うと、
不安で不安で仕方がなかったのですが、
運転手さんの動物的な勘により、夜中の12時過ぎに、
奇跡的に鄭州にたどり着いたときには、
ホッとして涙が出てしまいました。

今から思い返してみると、多分、
運転手さんが道を訊いた人たちの半分ぐらいは、
違う方向を指差していたのではないかと思います。
彼らに悪気はないのですが、
結果的にはだましたことになってしまっています。

よくわからなければ、一言「わからない」と
言ってくれた方が助かるのですが、
彼らは自信を持って、
自分が「鄭州はこっちに違いない!」
と信じる方向を力強く指差すのです。

よく日本人が中国企業との取引に失敗して、
「中国人にだまされた!」
と憤慨していることがありますが、
「だました」とされている中国人には全く悪気はなく、
結果的にだましたことになってしまっている、
というケースが多いのではないかと思います。

だますつもりのない人が、
自信を持って言っていることの真偽を
判断するのは至難の業です。

中国で人に道を訊くときには、
正しいことを言う人にだけ道を訊くべきですし、
中国の人たちと取引をするときには、
正しいことを言う人とだけ契約を結ぶべきなのです。


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2006年8月23日(水)

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