第585回
ごまかしがきかない中国語

昨今、パソコンとワープロソフトの普及と進化により、
日本人にも中国人にも、
漢字を「書く」ことができない人が
多くなりつつあるようですが、
日本人は中国人に比べれば、
まだ救われるのではないか、と思います。
それは、日本語の場合、漢字を忘れてしまっても、
ひらがなでお茶を濁すことができるからです。

ひらがなばかりの文章は幼稚には見えますが、
日本語は50個のひらがなさえ覚えていれば、
発音した言葉をそのまま「書く」ことができます。
ですので、少なくとも、手書きの文章で
相手に自分の意思を伝えることは可能です。

これに対し、中国語はごまかしがききません。
何しろ文章の全てが漢字ですので、
漢字を忘れてしまうと、
文章がそこで止まってしまいます。
文章を続けるためには、誤字でもなんでも、
書いていかなければならないのですが、
意味の違う漢字がたくさん入ると、
文章全体が何を意味しているのか、
わからなくなってしまう恐れもあります。

漢字を書けなくなることについての、
日常生活への影響は、
日本人より中国人のほうが、
はるかに大きいのです。

かの毛沢東主席は、
新中国の文盲を減らすため、
従来の漢字を大幅に簡略化した
簡体字を普及させました。

私たちが小学校で習ったように、
漢字にはそれぞれ意味があるのですが、
毛主席の簡略化の方法は、
「発音が同じなら、画数の少ないほうを」
というものでした。

例えば、「機(じー)」という漢字には、
発音が同じで画数が少ない「机(じー)」という
簡体字が当てられました。
このため、「飛行機」を表す中国語
「飛機(ふぇいじー)」の簡体字表記は
「飞机」となり、
私たち日本人が見ると、
机が空を飛んでいるようなイメージを与える
単語になってしまったのでした。

毛主席は甲骨文字に始まる
中国四千年の漢字の歴史を全否定するような、
大胆な簡体字改革をしてまで、
人民の識字率を上げようとしましたが、
そんな毛主席の思いとはうらはらに、
今、中国ではその簡体字ですら
満足に書けない人が増えています。

こんなことなら毛主席は、
漢字を簡略化する程度にとどまらず、
いっそのこと、ひらがなのような、
発音をそのまま表記できる全く新しい文字を
普及させたほうがよかったのかもしれません。


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2006年7月19日(水)

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