第543回
「学士様」の農村就職

北京市の面積は16,808平方キロメートル。
東京都の8倍もあります。

しかし、私たちが「北京」と聞いてイメージする
市街地の部分はほんの87平方キロメートル。
全体の0.5%でしかありません。
北京市のあとの99.5%は、
農地や山林で占められているのです。

ですので、近代都市に変貌しようとしている
大中国の首都・北京も、
市街地からちょっと離れると、
すぐに「ここが北京市内か!」と驚くほどの
ど田舎になってしまうのです。

北京市政府としても、
全市の99.5%を占める農村を
いかに活性化できるかが、
今後の北京市の発展のキーポイントになる、
と考えています。

ただ、日本と同様、大学を卒業した「学士様」は、
農村で汗水たらすより、
都会でかっこいい仕事をしたがる傾向にあるため、
中国でも農村の人材不足は深刻なようです。

こうした状況を打開するために、
北京市政府は「超氷河期」の就職戦線に苦しむ、
新卒の学生に目を付けました。
村長に当たる村民委員会主任や、
共産党支部の補佐役など、
北京市内の農村の幹部職、約2,000人分を用意し、
大学卒業予定者に募集をかけたのです。

この目論見は見事に当たり、
約2,000のポストに1万1,354人の大学卒業者が殺到、
6倍近い狭き門となったそうです。
応募者の中には、北京大学や北京人民大学など、
超エリート大学の学生も多数いる、とのことですので、
今回の試みは、
中国最高峰の頭脳を農村の発展に生かす、
というすばらしいモデルケースに
なるのではないでしょうか。

ただ、この企画には裏があります。
大学卒業者は農村の幹部を3年間務めると、
その後、政府機関や国有企業などへの就職が
優遇される、という特典が付くそうです。

そーかー、やっぱり。
応募した学生たちの目的は、
祖国最大の問題である三農問題を解決するべく、
大学で習得した高度な知識を、
農村の発展にささげる、
という純粋なものではなくて、
3年後の政府機関や国有企業への就職、
という、ヒジョーに現実的なものだったのね。

ま、動機はともあれ、
優秀な「学士様」が3年間とはいえ、
村の発展に尽力してくれる、というのは、
農村にとってはありがたいことです。
優秀な人材がいれば、
農作業の効率化や、企業の誘致など、
いままで思いつかなかったような
様々なアイデアが出てくるかもしれません。

日本の過疎化対策も、
地方にカネをばらまくだけではなくて、
北京市のような人材重視のやり方を
参考にしてみてはいかがでしょうか。


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2006年4月12日(水)

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