第506回
「この電話は盗聴されている」

昨年末、在上海日本総領事館の男性職員が
一昨年の5月に自殺していたことが、
日本で報道されました。

報道によれば、中国の工作機関の人間が、
この男性職員の弱みを握り、
それを公にしない見返りとして、
日本の外交機密を漏らすことを強要したため、
この男性職員は進退きわまって自殺してしまった、
とのことです。

中国政府は「こうした事実はない」と
全面的に否定していますが、
一見、高度経済成長に沸き、
自由主義国家となんら変わらない様相を呈している中国も、
やっぱり、共産党独裁の警察国家だったんだ、
ということを思い起こさせてくれる事件でした。

私が初めて中国に来たのは1991年。
1989年の天安門事件の記憶がまだ鮮明なころでしたので、
「民衆に発砲しちゃう、共産党独裁国家に来たんだ」
ということで、かなり緊張しながら
飛行機を降りた覚えがあります。

丸紅北京支店の駐在員の方の話も衝撃的でした。
「外国の報道機関は、
外交公寓というところに押し込められていて、
本国への電話は全て盗聴されている。
この事務所の電話も盗聴されているかもしれないから、
本社に電話するときには、
めったなことはしゃべらないように」とのことでした。

「この電話は盗聴されている」。

なんか、昔、映画で見た
「盗聴されてもいいように、
暗号を使って本国に電話するスパイ」
みたいな気分でした。

それから15年後の現在も、
中国では、言論の自由が保証されていません。
外国の報道機関もいまだに全て、
外交公寓に入ることが義務付けられています。

昨年、自由な報道の確立を目指す国際団体、
「国境なき記者団」が発表した、
世界167カ国の報道自由度ランキングで、
中国は159位でした。
167カ国中159位、ということは、
下から9番目です。

ちなみに中国より下にいるのは、
161位キューバ、163位ミャンマー、164位イラク。
そして最下位はやっぱり北朝鮮でした。

すごい顔ぶれです。
この顔ぶれを見ると、
「一見、自由なように見えても、
自分はかなりこわい国に住んでいるんだ」
ということに改めて気付かされます。


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