第434回
改革開放政策の「改革の本丸」
従来、中国の国有企業の最大の役割は、
利益を出すことではなく、雇用を守ることでした。
国有企業がたくさんの人を雇用すれば、
失業者が巷にあふれて治安が悪くなることもなく、
国家が安定します。
これに対し、中国政府は国有企業が雇用を守れるように、
市場を独占する利権を与えました。
私が中国に駐在して、
中国の炭鉱のことを調べていて驚いたのは、
その従業員の多さです。
私が丸紅の東京本社にいる時に担当していた
オーストラリアの炭鉱は、
年間生産量が300万トンで、従業員数は700人でした。
従業員1人あたり、年間4,300トンの
石炭を掘っていることになります。
これに対し、当時、中国最大の炭鉱だった
山西省の大同炭鉱は
年間生産量が3,000万トンで、従業員数が26万人でした。
従業員1人あたりに直すと、年間115トンにしかなりません。
もちろん、大同炭鉱の従業員数26万人には、
炭鉱直属の学校の先生や、病院のお医者さんなども
含まれてはいるのですが、それにしても、その差は約40倍。
いくら中国の人件費が安いといっても、
これでは、同じ国際マーケットという土俵で戦ったら、
ひとたまりもありません。
これは、炭鉱に限らず、
他の産業の国有企業にも言えることでした。
毛主席は、国際マーケットなどとは関係なく、
半鎖国のような状態を続け、
自給自足の計画経済で発展していくモデルを
推進していました。
しかし、雇用が保証され、競争も全くなく、
働いても働かなくても給料は同じ、という状況で、
国民がまじめに働くわけもなく、
経済はなかなか発展しませんでした。
そこで、中国経済を発展させるために、
毛主席の死後、
資本主義の象徴である競争原理を取り入れた
改革開放政策に舵を切ったのがケ小平でした。
そして、ケ小平の子供たちが今も継承する
改革開放政策の「改革の本丸」が、
国有企業改革なのです。
雇用を守ることが最大の役割だった国有企業は、
図体ばっかりがどんどん大きくなり、
ついには自分の体重を支えきれずに
絶滅してしまった巨大恐竜のような状態でした。
国有企業改革は、こうした国有企業を、
筋肉質のスリムな体に鍛え上げ、
国際マーケットという土俵で、
外国の企業と対等に戦える状態まで持っていく、
という壮大な計画です。
どこかの国の「改革の本丸」とは、
スケールが違うのです。
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