第581回
市が損失補償を約束しても
市町村や都道府県などの地方自治体は、
会社などの保証人にはなれないという法律があったんです。
正式名称は「法人に対する政府の財政援助の制限に関する法律」
と言い、通常は、「財政援助制限法」と呼ばれています。
さて、この法律は、政府や地方自治体が、
財政を危なくすることがないよう会社などの
債務の保証をすることを禁止しています。
したがって、仮に、市が
ある会社の債務について保証すると約束しても、
その契約は無効となります。
しかし、これまで、損失補償は、
債務に関する保証とは異なるから有効と考えられてきたため、
地方自治体は、第三セクターなどの借入について、
損失補償をしてきました。
実際、過去の裁判では、損失補償は有効とされてきました。
ところが、この度、東京高等裁判所は、
判決で、損失補償も、保証契約と同じであり、
財政援助法で禁止されているから、無効だと判断したのです。
この判決は、
マスコミであまり取り上げられていないようなのですが、
この結論が維持されればすごい影響があると考えられます。
第三セクターや地方の公益法人などは、
赤字で、金融機関からの借入が返済できないものが多いのです。
しかし、このような赤字法人を清算できないのは、
地方自治体が損失補償していることから、
法人を破産させたりすると、
財政的に赤字の地方自治体が
損失補償を履行しなければならないからだと言われています。
ところが、この判決に従えば、
地方自治体は、金融機関に対し、
損失補償をしなくて良いということになりますから、
赤字の第三セクターを破産させるなど清算しやすくなります。
これに対し、金融機関にとっては、
たまったものではありません。
これまで、倒産しない地方自治体の損失補償は
有効だと信じていたから、
収益の不確定な第三セクターなどに
多額のお金を貸し付けていたのに、
今頃になって、それは無効だと言われても、
お金は出てしまっているので、
地方自治体が損失補償しなければ、
多額の損失が発生してしまいます。
個人的には、
地方財政の安定から保証を禁止した法律の趣旨からすれば、
損失補償も同じで無効だという今回の判決が正しいと思います。
しかし、これまで、国(行政)も、裁判所も、
損失補償を有効だとしてきましたからね。
上告された場合、最高裁は、
それを信じた金融機関に巨額の損をさせるような結論を出すのか、
それとも高裁判決をひっくり返し、
これまでの解釈のとおりにするのか注目です。 |