弁護士・高島秀行さんが紹介する
事前に備える賢い法律利用方法

第286回
お金のない人の約束

一般的には、契約書はよく読んで、
有利なことがきちんと書かれているか、
不利なことが書かれていないかを
よく確認しようと言われています。
取引相手が、自分に有利なことを約束したら、
必ず紙に書いて、署名捺印をもらっておけと、
弁護士もアドバイスします。

しかし、これらは、
相手が、自分に有利なことを約束したときには、
紙に書いてもらう必要があるということだけであって、
紙に書いてもらえば、
大丈夫で絶対安心
ということではないことに注意する必要があります。
どういうことかわかりますか?具体例で説明します。

相手が、自分に有利な約束をしたとします。
例えば、相手が、
自分の会社に100万円を出資してくれたら、
1年後に、倍の200万円で、
買い戻しますと約束したとしましょう。
こういうときに、
口先だけでは信用できないから
紙に書いてもらいましょうというのが、前半の部分です。
もちろん、紙に書いてもらうのは、
後で、そんなことを言っていない
と争われたときの証拠とするためです。
しかし、1年後、
書いてもらった紙を証拠として、
株を200万円で買い取ってくれと言ったらどうでしょう。

相手は、既に受け取った100万円は使い果たし、
逆に借金だらけで倍の200万円どころか、
元の元本の100万円も
その10分の1の10万円も払えない状況かもしれません。
1年後には、
相手はお金を使うだけ使って姿をくらましているかもしれません。

そうなると、紙に書いてもらっていようが、
もらっていまいが、
相手方から、お金を取れないのは同じです。
だから、紙に書いてもらったからといって
大丈夫で絶対安心とは限らないのです。
これが先ほどの後半部分です。

お金のない人に、
いくら約束を紙に書いてもらったとしても、
絵に描いた餅で役に立ちません。
だから、相手が自分に有利な約束をしたときには、
すぐに飛びつかないで、
相手が約束を実現できるだけの資力
あるいは能力があるかということを検討して、
みなさんが、相手は十分約束を実現できると判断したら、
紙に書いてもらって、
お金を払うというのが、正解なのです。





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2007年9月4日(火)

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