第81回
偽証罪の適用はないのか
証人尋問では、証人が尋問の前に
嘘をつかないという宣誓をしてから行ないます。
そして、証言で嘘を言うと
偽証罪(刑法169条)に問われ、
3ヶ月以上10年以下の懲役に
処せられることとなります。
よく、依頼者から、
相手が嘘ばかり言っているので、
偽証罪で告訴できないかという質問を受けます。
しかし、そもそも、偽証罪は、
証人だけに適用があって、
訴訟の当事者である原告と被告の尋問には
適用がないのです。
ただ、当事者の尋問で、嘘を言うと、
10万円以下の科料という罰金のような制裁が科されます
(民事訴訟法209条)。
この証人の場合は偽証罪、
相手方本人の場合は
科料の制裁の適用が実際にあるかと言うと、
適用されるケースはほとんどありません。
なぜかと言うと、
証人尋問、本人尋問では、
自分の記憶どおりに証言すればよいのであって、
客観的な真実を証言する義務はないからです。
だから、他の証拠と矛盾する証言をしていても、
自分の記憶どおりに証言していれば、
偽証罪に問われたり科料の制裁を受けたりしないのです。
それはおかしいと思われるかもしれませんが、
過去のことについて、
客観的な真実を証言することは、
人間には不可能なことなので、
仕方がありません。
客観的な真実と異なることを証言したら
偽証罪に問われるとしたら、
みんな偽証罪に問われてしまいます。
証人は、記憶違いがあったとしても、
自分の記憶どおりに証言すれば
偽証罪にはならないのです。
偽証罪に問われるのは、
自分の記憶と異なるとわかっていながら、
証言で嘘をついた場合なのです。
しかし、証人の記憶と証言が違っているのか、
証人が記憶違いをしているから
他の証拠と違った証言となっているのか、
どちらなのかは、証人の頭の中の問題なので、
警察や検察官が立証することは
なかなか難しいことなのです。
だから、実際に偽証罪が適用されるケースは
ほとんどありません。
本人尋問の科料の制裁も同様です。
ただ、偽証罪で罰せられることが
全くないわけでもなく、
過去に偽証罪が成立するとされた判例もあることも
申し上げておきます。
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