第92回
ブランドケーエイ学37:さまよえるリピーター。

「風邪と水虫は、特効薬を発明したらノーベル賞ものだ」という俗説を聞いたことがある。
そのとき医学部に行った友達が、「水虫なんて、治る薬はもうあるんだ。ちゃんとつけないから治らないんだ」と悔しそうに力説していたのを思い出す。あいつはいい奴だった。きっといい医者になる、と思っていたらほんとにそうなった。

さて水虫薬という商品には、ダントツのガリバーみたいなシェアトップ商品は存在しないそうだ。消費者が毎年浮気をしてしまって、リピーターにならない。そのために、いろいろなメーカーの商品に、需要がばらけてしまうという。
聞けばなるほど、と思い当たる。
水虫の原因たる白癬菌はたいへんしつこいもので、表面上治ったようにみえてもどっこい皮膚の中で生き続けている。だからどの薬にも、「治ったようにみえてもしばらく続けよ」と注意書きが書いてある。しかしそれが続けられずに、みな苦労している。

水虫薬は、考えてみれば、完治すれば薬とは縁が切れるのだから、その商品に満足した人がリピーターにはなり得ないという、運命的に不幸な商品ではある。
かくいうぼくも、若き日の独身寮でお裾分けをもらって以来、もう長いつきあいになるわけだが、いまも「さまよえるリピーター」の一人である。
あれこれいろんな薬をためしているうち、薬品に対しての耐性を身につけてしまって、いっそう手強い菌になってはいないかと心配になる。

いち消費者として思うことは、たいがいの水虫薬は、いかにも貴重そうに、少量すぎる。ちょうど症状がかるくなるころに、使い切ってしまう。
薬を毎日続けるということは、命に関わる重要な病気であってもなかなか難しい。水虫の症状がほとんどなくなったころに、ひとビン使い切ってしまうことは、完治のためには絶妙に難しいハードルである。「ほとんど治っている」のに、また薬を買って続けろ、というのがとても面倒なのだ。

せめて容量が倍くらいあれば、症状がおさまってからも、じゃぶじゃぶつけられるのに。あの、いかにも貴重品的な少量パッケージングを見直してほしい。
リピーターはなくても、クチコミはあるわけだから、製薬メーカーも中途半端に引っぱらないで、ほんとに満足しうる商品を出して欲しいなあ・・・と切実に思ったりする、17年目の春であった。


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