第84回
ブランドケーエイ学34:ソニーの誠実。

ソニーの歴代広告のなかで、最も印象に残っているものはなにか?
トリニトロンの小型ジェット機とか、イカの赤ちゃんとか、鮮明だったものはいくつもあるけれど、ぼく個人がもっとも感銘をうけたものが3つある。

かつてトランジスタが長持ちすることをアピールするために「ソニーのトランジスタは永久保証」と広告したことがあったそうだ。ところが何年もたってみると、やはり「永久に」保証するなんてことはできないのであった。
そこで「むかしソニーのトランジスタは永久保証ですと宣伝しましたが、あれは間違いでした」とお詫びの広告を出したことがあった。
そんなことで言いがかりをつける人も少ないだろう。よほどのケースで個別に代品を渡すとか金を払うとかでもよかったのじゃないかと思ったが、ソニーはわざわざ広告を出して、このことを公けにした。そして、なんらかの代替策を示していたと記憶する。それがひとつ。

ふたつめは、ソニーがロゴデザインの変更を企画して、デザインを公募したときのことだ。世界中から、すぐれた次世代ロゴマークのデザインが集まり、優秀作のデザイン案とデザイナーの名前を発表する新聞広告を出した。その時、自分が何歳だったのか覚えていないが、それらのデザインのなかには、斬新なものがいくつもあって、そのカッコよさにまずびっくりした。広告の本文には、それらのデザイン案につづけて、こんな趣旨が書いてあった。
「よく考えたのだけれども、結局ロゴは変えないことにしました。優れた案を考えてくれたみなさん、ありがとう」
この結論には、またびっくりした。

三つ目は、みなさんも覚えているだろうと思う。ベータマックスがいよいよ劣勢に立たされたときだ。「ソニーはベータマックスをやめません」と全面広告を打った。
「ユーザーにはこれからも製品と部品を供給しつづけます」とう結論だったが、事実上の敗北宣言と解釈され、直後の株主総会は大モメとなったはずだ。このころ、株価も歴史的な安値となった。

都合の悪いことはあいまいにしてごまかすのがふつうの会社のやり方だが、ずうっと前から彼らはこんな広告を出していた。誠実で前向きなこの3つの広告で、ぼくはますますソニーファンになった。
いまから考えると、まさに、広告の中に経営があったわけだ。


←前回記事へ 2003年2月20日(木) 次回記事へ→
過去記事へ
ホーム
最新記事へ