第64回
組織ケーエイ学26: ナンパ励行のこと。
新聞には、著名な人が交友関係を自慢できるコラムがあるけれど、まあさすがに成功した人は、けっこうなお友だちをもっておられるもの、と思う。
自分は、そういうコラムを書く番はまず回ってこないだろうが、あまりつきあいの広い方ではないから、もしそういうことを依頼されたら相当困るだろうな、とときどき意味なく空想する。子どもの頃はクラスの人気者だったはずだが、いつのまにか、間口の狭い人間になってしまった。
少し前に、高校の同窓会にたて続けに顔を出してみたことがあるが、残念なことにあまり話の合う仲間を見つけられなかった。いわゆる地方エリート校で、高校生の頃はみな頭がよく、刺激的な友人だったのだが、いつしか価値観も違ってしまったようだ。
彼らと話をしていると、いかに自分が一般世間からはずれた場所に居場所をつくってしまったかと、考えさせられる。
交友関係は、たえず内側から圧力をかけていないとしぼんでしまう、風船のようなものかもしれない。
古い友だちをのきなみ失ってる反面、ぼくはときどき若い人に声をかけ、ナンパをしたりする。
わが社の、ぼくが一番信頼しているデザイナーとは、ある展覧会の後に会った。若い人100人が1点ずつ持ち寄るという合同展覧会をたまたま見ていたところ、どれもキタナイ絵ばかりでうんざりしていたのだが、1点だけ素直で好感のもてる絵があった。
この絵を描いた人に会いたいと申し込んで、数日後に電話がかかってきた。会って最初は、お茶を飲んだだけだったろうか。
2回目に会ったとき、彼女の方でも、勤めていた会社が倒産して困っているというタイミングだった。それで、実質的にスイスイ社はじめての、他人たる正社員となってくれた。
先日はコーヒーを飲んでいると、隣席の外人がめずらしい携帯電話を持っていたので声をかけてみた。なんとなく話が合って、聞いてみるとドイツからきた写真家で、フランクフルトで個展を開くために東京で作品を撮りためているという。ぼくが広告の仕事をしているというと、彼は翌日、作品をかかえてぼくのオフィスを訪ねてきた。
微妙なトーンに若さもあって、非常にいい写真だった。
仕事する機会がこの先あるかどうかわからないけれど、とても面白い出会いになって、楽しかった。
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