第108回
文化比較論、の対象にもできない国!?
フランスなどとは違った意味で、
日本と大きな違いを感じてしまうのがタイという国です。
不景気が叫ばれている昨今の日本ですが、
タイにも数年前、深刻な経済危機だといわれた時期がありました。
90年代の半ば、タイにバブルが訪れます。
90年初頭、タイから日本に出稼ぎに来る人がたくさんいたのを
覚えている人もいるかと思いますが、
国が豊かになるに連れてその人数は減っていきました。
97年7月、タイは変動相場制へと移行しましたが、
これによりタイ・バーツの対ドル相場はそれまでの半額以下に下落。
いわゆるバーツ安と呼ばれる状況になりました。
不動産投機などを行っていた人たちは深刻な打撃を受け、
日本でも「タイの経済は危機的な状況」などと報道されました。
しかし、実は現地の人たちはそれほど深刻に思ってはいなかった。
もともとそれ以前のバブル景気に踊ったのは一部の人たちで、
多くの人たちは生活に余裕が出てきても、
余ったお金は貯金に回していた。
私もこの頃に現地へ行き、ジャーナリストなどに取材しましたが、
深刻さはあまり感じませんでした。
今の日本の方が、よほど閉塞感があると思います。
自国の通貨が弱くなると、日本や欧米では、
景気が悪い、失業率が下がるなどと騒がれます。
ところが、タイ人の生活はそれほど悪くはならない、
いやそれどころか、最近は好景気だと言われているくらいです。
どうしてでしょうか。そう、観光客が増えて、彼らが落とすお金が、
国を潤わすようになったのです。
特にプーケット島やサムイ島などの大型リゾート地は、
それが顕著で、ホテルの建設ラッシュになっています。
もちろん日本人観光客も貢献しています。
90年代後半に、タイ国際航空が「タイは若いうちに行け」
と銘打った観光キャンペーンを展開。
タレントの長瀬智也さんや石田一成さんを起用して、
テレビCFで若者にアピールしました。
これが見事に当たり、それまでの「バックパッカーしかいかない」、
「オジサンの売春ツアーで行くところ」といった偏ったイメージを払拭。
今では老若男女問わず、楽しめるようになりました。
20代のカップルなど、新婚旅行で行く人も珍しくありません。
経済危機だろうが何だろうが、気にする様子もない。
英語のTake it easyに近い意味で使われる「マイ・ペン・ライ」の国。
そんな気楽さ、緩さが逆にホッする場所として
外国の旅行者の心を引きつける。それが、結果的に経済を助ける。
観光で経済を潤わすという意識の薄い日本とは、
まったく違う価値観で動いている国かもしれません。
もっとも、最近、日本も外国人観光客の誘致に動き始めましたが。
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