第4053回
「街場の中国論」是非ご一読を
歴史は人類がやってきた過去をふりかえって書かれた物ですが、
未来はこれから起ることですから
同じことのくりかえしではありません。
人間の知恵には限りがありますから、
同じ愚をくりかえすことが多いのですが、
よく見れば、全く同じということでもありません。
少しずつは利口になっていることがわかるのではないでしょうか。
人が歴史の勉強をするのもそうした期待があるからです。
昔起ったことと今をつなぎあわせて、
次に起ることを予想するのは、
私にとっても興味の尽きない楽しみの一つですが、
そう言った看点から最近、読んで大へん面白かったのは
内田樹(うちだたつる)さんという
神戸女学院大学文学部の先生の書いた
「街場の中国論」(1600円+税
ミシマ社)という、
いま話題沸騰している日中問題を取り上げた本です。
「街場の」と自らタイトルをつけているくらいですから、
津波のような勢いの中国論争があることは
百も承知の上での新しい斬り込みで、
ゼミの方式で問題を取り上げ、尖閣列島からはじまって、
中華思想、中国近代史、さては台湾との関係まで、
普通の学者の先生では思いも及ばないような
切れ味のよい分析をしています。
なかでも私が最も出色だと思ったのは、
中国歴代王朝の近隣諸国に対する鷹揚な態度で、
朝鮮半島も足利幕府もかつて大陸の政府に朝貢した地方の政府で、
それらの地方政府から使者が来れば
届けられた貢物よりも何倍ものお返えしをやった歴史を
私たちに思い起させてくれた点です。
いま北朝鮮やミャンマーに対する中国政府が
まさにその続きをやっていて、
アフリカに対しても、イランやパキスタンに対しても、
その延長線上の展開がはじまったところです。
そういう伝統の上にたった国であることを
日本人が認識しておれば、
インドと手を組んで
中国に一杯食わせてやろうじゃないかといった発想には
つながらないのではないでしょうか。
物を見る角度が面白いので、
皆さんがアジアで次の駒を動かすにあたって
とても役に立ちます。
是非ご一読をおすすめします。
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