第3801回
「為人民服務」から「為人民幣服務」
かつて毛沢東の時代は「為人民服務」(人民のためにサービスする)
というのが共産党のスローガンでした。
そう言われれば誰も異議を唱えることができませんでしたが、
「看板倒れ」という言葉もあるくらいですから、
実際はそういう看板の下では
誰も政府に反対できない時代が続いたということにほかなりません。
ところが、社会主義市場経済がスタートしてからこの20年に、
中国は見違えるほど豊かな国になりました。
工業が大発展して人手不足が表面化すると、
国をあげて賃上げ斗争が起っています。
人々は何のために働いているかというと、
もっと収入をふやすためというのが本音になったのです。
豊かになると、その分、言論も自由になりますから
どこまで言っても大丈夫かは人民の方がよく心得ています。
そのせいか、街で売っているランニング・シャツを見ると、
何と「為人民幣服務」と書いてあるではありませんか。
これには思わず破顔大笑してしまいました。
何のために働いてるかというと、
「人民元を稼ぐためだ」というのです。
これこそ働く中国人の本音でしょうが、
本音を口に出しても大丈夫な時代になったのです。
こんなことは中国の歴史はじまって以来、かつてなかったことです。
もちろん、お金に敏感なことでは中国人はユダヤ人以上でしょうが、
心の中でそう思っても、
それを表看板にすることは避けてきました。
それがとうとう本音をランニング・シャツに書いて走り出す人が
珍しくなくなったのです。
皆が皆、お金のために働いているのですから、
賃上げは時代の大きな流れになります。
その流れが年と共にふえるのですから、
ビジネスをやる人もそれに対応できなければ成功できませんし、
それどころか店じまいに追い込まれる心配もあります。
今までのやり方で成り立たない反面、
新しいチャンスが中国を訪れていると見て間違いありません。
新しい時代がはじまったのです。 |