中国株、海外起業、海外投資、グルメ、ファッション、邱永漢の読めば読むほどトクするコラム

第3251回
美齢が「赤い靴」で売りだされるまで

私の秘書をつとめる前は
アメリカの保険会社の仙台支店に勤めていたのですから、
本人から中国に行きたいと申し出があったのですが、
いくら何でもいきなり成都のケーキ屋の店長では
本人より私の方がびっくり仰天です。
でも本人は何の不平も言わず、
2ヵ月に1ぺんくらい私が成都に行く度に
飛行場の送迎をしたり、
一緒に食事をするくらいのつきあいです。
伊勢丹の地下の売り上げもさっぱりだし、
もしかしたら人事のミスじゃないかと
私はとても心配しました。

ところが、或る時、
「僕は料理好きで、学生時代、
イタリア料理屋でアルバイトをしたことがあります。
休みの日にいつも牛々福の金(キム)さんのところに行って
料理をつくっていますので、
今度、先生がおいでになったときに
僕の腕をふるわせていただけませんか」
と言うので「へえ!」とびっくりしただけでなく、
肩の荷がすっかりおりてしまいました。
そしてその次に成都に行った時に、
牛々福の店で成田君の手料理と
自分で考案したケーキの試食にあずかったのです。

先ずスパゲティが出てきました。
何の特徴もなく、同席した人も
誰一人おいしいという人がいませんでした。
次にいかでダシをとったスープが出てきました。
一口食べるとかなりの美味。
私はそのスープをスパゲティの上にかけると、
瞬時にしてスパゲティがまたとない美味に変わりました。
「見て見て」と言った途端に皆が私の真似をし、
一せいに「うまい」「おいしい」と歓声をあげて
どの皿も空になってしまいました。
「これだ。これにしよう。
もしスパゲティを出す商売をやることがあったら」

と私はすぐに叫びましたが、
実はそのあとに続いた
成田君が自分で考案したという
ホウレン草とトマトとバナナにチーズを加えたケーキの
口ざわりがまたとない素晴しいものだったのです。
私はこのケーキに美齢(美しく年をとるケーキ)
という名前をつけ、
つい最近上海旧天地の「赤い靴」で
売り出したところです。


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2009年2月2日(月)

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