第2594回
改善に努力した企業が生き残る時代に
日本と違って、中国では
愛社心よりも個人の利益を中心として行動する人が多いので、
報酬や労働条件によって人が移動します。
いまから30何年前、
私は台湾の高雄市の輸出加工区に
日本の縫製メーカーと合弁で
衣料品の加工場をつくったことがありますが、
いつもきちんと出勤していた双児の女の子の姿が見えないので、
ひょいと隣の工場を覗いたら、
何とそこで働いているではありませんか。
どうしてかとききに行かせたら、
隣りの方が日給で2元(たったの10円)高いから、
そっちへ移ったのだそうです。
それと同じことがいま中国全体で起ろうとしています。
そうした定着率の悪さを見て、
「中国経済の成長もいよいよ限界に達した」とか
「それでも中国で生産しますか」とかいった記事を載せている
日本の新聞や雑誌を見たことがありますが、
同じ現象を私は
「中国もいよいよ先富から全富の時代に入りはじめたぞ」
と解釈します。
なぜならば経済成長は
国民全体を豊かにするためのものであって
一部の抜け目のない人たちを
金持ちにするためではないからです。
企業や経営者にとって
やりにくい時代に入ることも事実ですが、
国全体が豊かになって皆の暮らしがよくなることが
政治の目的であると考えてよいのではないでしょうか。
そういう意味で、
労働力の確保に問題が生ずることは当然、
予想に入れて対策をとるべきです。
しかし、そうなればお金の流れに一大異変が起りますから、
企業の経営も舵の取り方を変えなければならなくなります。
たとえば過剰流動性が激化すると、
政府も遂に力尽きて
人民元の切り上げをせざるを得なくなりますから、
その分だけ輸出産業は不利になります。
但し、そのくらいのことは
輸出産業に従事している人は誰でも知っていますから、
必死になって対策をとるにきまっています。
その結果、輸出産業に更に力がつくことも
全くないわけではありません。
ボンヤリしている企業は淘汰されて、
素早く体質改善に努力する企業が
生き残ることになるということです。
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