第2339回
医者のつくった化粧品では売れません
癌の先生がつくった化粧水ときいて、
たちまち私の頭の中をかすめて通るものがありました。
「効きますか」とすかさず私がききました。
「とてもよく効きます。
漢方についてはもうベテランですから、
何が効いて、何が効かないか。
またどこに効いて、どこに効かないかも、
だんだん色んなことがわかってきています」
「でも売れないでしょう?」
と私が誘導尋問をすると、
「おっしゃる通りです」
と王振国医師は微笑を浮べながら、コックリコをした。
「化粧品というのはまた別の売れ方をするんです。
お医者さんのつくった化粧品に食指を動かす人なんか
あまりいないんですよ」
でも私が瞬間的に思ったことは、
癌に効くということは
胃や腹などの内臓に効いているということであり、
内臓に効くということは
癌細胞の下から新しい健康な細胞が生まれてくることに
ほかならない。
もし内臓の細胞にそうした作用をする
何らかの薬物が含まれているとしたら、
皮膚の表面を覆っている細胞に同じ効果がないわけがない、
と私の頭の中のカンピューターはたちまち作動したのです。
「では私が先ず自分で実験してみます。
本当に効果があったら、どうやって売るか、
私がお手伝いしましょう。
私の周囲にはいま中国で
美容室のチェーンを展開している者もいますし、
すぐにお手伝いできる者を集めることができますから」
その日のうちに王振国さんは
ホテルまで実験用のサンプルを届けてくれました。
そして、その夜から私は早速、実験にとりかかりました。
実験に使った化粧水はスプレーつきのプラスチック製ですが、
商品としてはあまり見栄えしない代物です。
それを私は1日に2回、
顔と首と腕と指のアザほどの色合いになったシミに吹きつけました。
顔に吹きつけると、大へんなスピードで肌の中にしみこみます。
その早いこと。
これはファウンデイションとして最適だな
と私はすぐに思いました。
|