第1741回
ドルが目減りしても日本人が貧乏しないわけ
私がこれまでに
物の見事に言い当てたことが二つあります。
一つは1ドル180円だった時に、
必らず1ドル100円になるだろうと予言したことです。
もう一つは15年前に、
工業生産に有利な条件が日本から中国に移って、
日本の大半のメーカーが
生産基地を中国に移すだろうと予言したことです。
20何年前、ニューヨークの日本人会で
私がいまに1ドルが100円になりますと唱えた時は
まさかと思ってきいた人が多かったと思いますが、
その時、居合わせていた日本の為替に強い
某銀行のニューヨーク支店長さんが、
「最近、邱永漢さんという人が来て、
1ドル100円になると
デタラメなことを言っていましたが、
そんなことは起らないと思います」
と別の講演の席上で私に反論したとあとでききました。
でもその後、
ドルが160円、150円とだんだんドル安になると
その支店長さんは講演を頼まれても
あまり行きたがらなくなった、
とニューヨークの現地日本語紙の社長さんから
きいたことがあります。
どうして私が
人の意表をつくようなことを言ったかというと、
対米貿易の黒字が定着するようになると、
それが日本の体質になって年々日本の輸出は拡大し、
それが少しずつ円を押し上げて
遂に100円を割っても不思議でないところまで来る
と考えたからです。
しかし、私が1ドル100円説を唱えてから
実際に100円になるまでに9年もかかりました。
そんなに時間がかかったのでは
貿易の決済をする人にとっても、
保険会社でアメリカ国債の運用をする人にとっても
何の役にも立ちません。
むしろ、この間に
円をドルに換えて運用した機関投資家や
膨大な米ドルを高値で抱え込んだ日銀の方は
大へんな損害を蒙ったことになります。
それでもなお貿易黒字はふえる一方でしたから、
日本側はドルの目減りに耐えながら
更にドルの準備高を増やし続けて今日に至っています。
いずれも付加価値が稼ぎ出したお金ですから、
それがふえ続ける限り、
日本人は大損害を蒙っても
貧乏にならないで今日に至っているのです。
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