第1590回
必要是発明之母、偶然是成功之父

「必要は発明の母」と昔から言われています。
「こういうものがあったら便利だな」
「こういうものがあったら助かるなあ」
と人々が等しく願望しているものは、
いつか必らず発明され、実用化されるものです。
自分の足で歩かなくとも、
行きたいところへ運んで行ってくれる
足の代用品はないものかと誰でも考えます。
それが汽車や自動車の発明につながりました。
また空を見あげて鳥がとんでいるのをみて、
ああいう具合に空をとべないものかと
空想妄想したことが、
翼のない人間に
空をとぶ技術を着想するきっかけになりました。
ここまでは誰でも理解できることだと思います。

私がこのあとに
「偶然は成功の父」とつないだのは
志のある者が一生懸命やっていると、
思っても見なかったひょんなことから
成功のきっかけがつかめるようになる。
だから、偶然をバカにしてはいけない、
というほどの意味です。
ペニシリンの発見でノーベル賞をもらい、
多くの人々の生命を救ったフレーミングという人は、
化学薬品を使って黴菌を殺す実験をしていましたが、
一向に成果があがらず、さんざん苦しんでいました。
ところが、ある雨の降る日に
カビの生えたドタ靴をはいて自分の実験室に入り、
そのカビが何かの調子で、
培養器の中に落ちたら、
その中の黴菌が一せいに全滅してしまったのです。

はじめは何の意味かわかりませんでしたが、
カビが黴菌を殺した事実にヒントを得て、
友達の古靴まで集めてきて
片っ端しから実験しました。
その結果、土壌の中に生存する或る種のカビに
黴菌を殺す能力があることがわかったのです。
おかげでペニシリンが発見される前は
急性肺炎や腹膜炎にかかっただけで、
すぐコロリと死んだ人間が
一命をとりとめるようになりました。

ですから人生、
どこでどんなきっかけから成功できるのか、
全く想像もできません。
もちろん、目的に向って
懸命の努力をしないわけには行きませんが、
そのプロセスで偶然に起ったことを
バカにしてはいけないのです。
偶然は人生における大きな出会いのはじまりです。