第838回
高山病に無縁だったのは私ひとり

予定通りに到着したラサの空港は昔ながらの古びた建物で、
中国でも経済発展の著しい沿海都市の空港が
次々と斬新な建物に衣替えしているのと対照的でした。
空港から市街地まで2時間もかかり、
恐らく中国で町まで一番遠い空港といわれていますが、
その代わり途中の風景が見あきないほど素晴しいので、
時間がたつのを忘れるとも言われています。

空気がうすいけれどよく澄んでいるので、
遠くに聳える連山が手にとるように見え、
岩だらけの山の間をきれいな川が流れていて、
右を向いたり左を向いたりしているうちに、
ラサの町に入ってしまいました。
なるほど「時間がたつのを忘れる」というのは
このことですね。

チベットは広大な面積に260万人ほどの人口しかなく、
その中、35万人がラサに住んでいます。
ダライ・ラマ14世がインドに亡命したあとも、
チベットでは依然として
ダライ・ラマの人気が圧倒的に強く、
ポタラ宮を見学するにあたってガイドが説明をする場合も
ダライ・ラマの話でもちきりでした。

但し、
海抜3650メートルの高地にあるラサのことですから、
到着した日は大事をとって
ホテルに着くと先ず休息をとるようにと注意を受けました。
私はどうもなかったのですが、
私の面倒を見る筈の秘書はたちまち頭が痛いの、
吐気がするの、と言って寝込んでしまいました。
とうとう2日間、物も食べず、
3日目になって漸く元気を取り戻しましたが、
滞在中、全く異状のなかったのは私だけで、
あとの29人のほとんどが何らかの苦痛を訴えていました。

それでも一生に一ぺんは行ってみたい
「世界の屋根」チベットに来た興奮で、
誰もが胸をときめかせ、
全員、無事に3日間のスケジュールをこなして、
帰途についた時は一様に胸を撫でおろしていました。
ついでに申せば、若い人は高山病に襲われやすく、
海千山千越えてきた者は、
高山病には強いということでしたから、
センセイはやっぱり大したものですね、
と皆から妙な褒められ方をしました。


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2002年6月26日(水)

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