第438回
高いトマトでも奮発して食べますか
野菜や果物の生育状態を原産地まで行って調べ、
それと全く同じ条件で
日本で栽培することを思い立ったのは、
永田さんが最初かどうかも知りませんが、
永田さんが私に話してくれた話はとても印象的でした。
たとえば、キャベツの原産地はギリシャだそうです。
ギリシャに行ってキャベツが生えているところを見ると、
海の波打ち際ギリギリのところにあって、
しぶきがかかっていました。
食べて見ると、それがとても甘いんですね。
それにヒントを得て、
熱海で土地を確保して海のそばでキャベツを植え、
試みに海の水をキャベツの上からかけて見ました。
その結果について真先に気づいたのは、
人間よりもカラスでした。
そのあたりを縄張りにしていたカラスが海の水をかぶって
甘くなったキャベツを突っつきはじめたからです。
よその畑のキャベツは振り向きもせず、
専ら永田さんのキャベツ畑を狙ったので、
とうとう収穫ができずに折角の試みは
失敗に終わってしまいました。
キャベツは失敗しましたが、トマトは残りました。
しかし、造船所跡地のトマトづくりは
工業経営になれてきた人たちには勝手が違いすぎたし、
美味しいトマトは雨量が少なくて、
昼と夜の温度差の多いところほどいいことがわかったので、
だんだん北上して福島県とか秋田県とかに移り、
いまでは北海道の仕事になりつつあります。
また農業は人のやるのと
同じ事をやればいいという長い伝統がありますから、
すぐ類似品が出てきます。
「完熟トマト」と名づけて売り出した永田さんのトマトも、
商標登録をしなかったせいもあって、
次々と出てくるのがすべて「完熟トマト」と銘打たれて
一般名詞になってしまいました。
それでも食べて見ればどれが本物かわかります。
おかげである程度の固定客はできましたが、
芸術品のような農産物が
はたして商品として生き残る余地があるかどうかは
最後まで問題です。
何と言っても高いトマトですからね。
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