第360回
効率の悪さを知りたかったら北京へ
北京は中国で一番住み心地のよいところではありません。
冬は零下の温度になって風は頬をさすように冷たいし、
夏は大陸性の暑さになって冷房がないとすごせません。
黄塵万里の砂塵が砂漠の方向から吹き込んでくるし、
水道水は沸騰させるとオリが出てきます。
洗濯物はクリーンな感じにしあがりません。
明の永楽帝がどうして首都を
南京から北京に移したのかわかりませんが、
満州の女真族が満州の酷寒の地から南へ攻め込んで
そのまま北京に居座ったのなら理解できます。
瀋陽がマイナス20度の時、
北京はマイナス5度ていどですから、
清朝の皇帝にとっては
住みよいところだったに間違いはありません。
南京に首都をおいた国民政府を台湾に追い出した人民政府が
北京に首都をおいた理由もわかります。
南京の討伐軍も入って行けないような延安の田舎よりは
北京の方がずっとすごしやすい大都会だったし、
南京をひぼしにしてやろうと考えた
共産党の対抗意識にうまく合致していたからです。
人民政府を発足させた中国共産党はかつての清朝時代に
高位高官の住んだ紫禁城のすぐ隣接した中南海に
仕事場も要人たちの住所も集め、
ここから天下に号令をかけています。
私は「中国の効率の悪さを知りたかったら北京へ」
と言っていますが、中国では
「自分の役人としての地位が
如何に低いかを知りたかったら北京へ」
と言われています。
地方で大きな顔のできるお役人さんも
北京に行ったら
どこの馬の骨かわからないほどの権限しかないんですから。
その代わり官僚社会の難しさは
日本人には想像もできないほどの複雑なものです。
絶対君主制とか官僚専制とかいうくらいですから、
役人の社会は権限が
上層部に集中されていると思うでしょう。
ところが、それがそうではないのです。
権限は上層部に集中していますが、
上は下を疑い、下は上を疑い、
お互いに不正をしているのではないかと
監視しあっている組織なんです。
北京に住んで仕事をする場合、一番賢い方法は
お役所とかかわり合いのない仕事を選ぶことです。
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