第30回
お金に死に値するような値打ちはありません
お金のない時は下宿に帰って
フトンをかぶって寝ているに限ります。
昭和39年の不況の時は
コンサルタントのオフィスをたたみ、
ドライバーと会計の女の子の
2人だけを連れて自分の家にひきこもりました。
長い籠城を覚悟したのです。
オフィスにしていたマネービルのほかに、
新中野にもう一軒、私はビルを建てていました。
どうしてビルを建てたかというと、
将来年をとって原稿を書いても
売れなくなった時に定期収入があれば、
世間からあの人はズレているのに
無理をして売れない原稿を書いていると
言われないですむと思ったからです。
でも、そのために少々無理をして
銀行から借金をしていました。
毎月きまった金額を銀行に返さなければなりません。
ビルを建てる前に、
テナントになってくれる人を探して、
一応は空き室がないようにしたのですが、
不景気になると、入居していた会社が次々と撤去して、
新中野のビルは、
四階のうち3階分が空室になってしまいました。
その上、自分まで、オフィスを
引き払ってしまったのですから、
銀行に約束していた返済を
うっかりするとやれなくなる心配が出てきました。
私は人と約束したことを破ったことがないので、
夜も眠れないほど不安になって
「死にたい死にたい」を連発したら、
うちの奥さんから
「何を言っているのですか。
お金のことで死ぬことはありません。
どんなお金だって
死に値するようなお金はないのです。」
とピシャリと言われてしまいました。
それを言われて一ぺんに目が醒めてしまい、
以来、どんなにお金で苦しむ場面に遭遇しても、
死ぬ話はやらないことにしています。
考えて見れば、借金があると言っても
それに見合う資産があるのですから、
時価より安く貸せば、
ちゃんと借りてくれる人が現れるものなのです。
一年分もらう保証金を3ヶ月にして
家賃を思い切って下げたら、
すぐにテナントがつきました。
収入は減りましたが、
銀行との約束はちゃんとはたせたので、
何とか死なないですみました。
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