第24回
お化粧直しはどうしたらよいか
結婚式のツーズンになると、
いつも新聞に識者の意見が載り、
年々豪華になる結婚式に対する揶揄と批判をきかされるが、
私に言わせると、
豪華になるのは世の中が豊かになった証拠であって、
必ずしも批難に値しない。
批難さるべきは「企画の貧困」と
「品格の欠如もしくは不在」ということではないだろうか。
そのいずれも金がかかったかどうかということとあまり関係がなく、
当事者たちがどういう演出をしようと思っているのか
ということに左右されるのである。
たとえば、お化粧直しについて
いまの若い人たちはなかなか重大な関心を持っていて、
白い花嫁衣裳からはじまって和服に変わり、
最後に新婚旅行にでも行くような洋装になる。
それを三回にするか四回にするか、
その仕立ては誰にたのむか、
何十回となく議論を重ねてやっと結着がつくようである。
最近は貸衣装屋という商売が発達して、
洋装から和装まで、比較的安いものから
とびっきり高いものまで揃っていて、
その値段はいささか我々の常識をこえている。
たとえば、一回借りて何と百五十万円という和装もある。
こんなバカ値段で借りる人があるものかと驚いてみせたら、
それがあるんですよと聞かされて、もう一度、驚いた。
商売人に言わせると、
もともと、何回も着るものではないし、
洋装の場合は一回貸す度に
花嫁の身体に合わせて仕立てなおしをするから、
高いのが当り前だと言う。
しかし、それにしても、もう二度と着ることのないキモノに
何百万円も払うのはバカらしいし、
かと言って、何十万円払って借りるのも因業な話である。
うちの娘の場合は、
キモノを借りるのをやめて中国服でとおしてしまったが、
新婦は他所の家の娘だから、
向うの母親の気持も考慮に入れなければならない。
結局、白い花嫁衣装と最後に着る洋服はデパートに頼んだが、
キモノはホテルで借りることにした。
ホテルで借りるよりも、
そとの貸衣装店で借りた方が明らかに安いのだが、
ホテル内の貸衣装部が頑張っていて、
着付けの時など不便な思いをさせられると言う。
いくらくらいのものを借りたら見劣りしないですむかと聞いたら、
三十万円だと言う。
うちの女房がそれを聞いて
「もったいないから、二十万円にしなさい。
どうせお客さまには二十万円と
三十万円の見わけはつかないんだから」と安い方に固執した。
また日本髪を結い、角かくしをすることにも反対した。
先ず細おもての顔に、
かつらをかぶせると頬が痩せこけて見える。
むかし、福助という女形は、丸髷をつけると、
頬がげっそり落ちたように見えたが、楽屋であうと、
ごく普通の顔であった。
また梅幸という女形は丸髷姿で出てくると
ちょうどよかったが、素顔で見ると、
頬がふっくらしすぎていた記憶がある。
だから花嫁はきっと
痩せこけて見えるだろうというのが第一の理由。
第二に、日本髪を結うとどうしても年をとって見える。
殊に角かくしをつけると、世帯じみてくる。
昔はこれをつけないと、花嫁を迎えた気がしなかったらしいが、
今の人にはそんな感覚はないし、
私たちにもそんな風習はない。
もし花嫁に角があるのなら、
嫁に来る時だけ隠してもしょうがないし、
いっそ皆に見えるようにした方がいいのではないか。
第三に、日本髪には、芸者さんの連想がある。
披露宴には、もともと一世一代の舞台に立つという意識はあるが、
堅気の家に来てもらうのに、
花街の連想はよいとは言えない。
向うのお母さんは日本髪に未練があったそうだが、
うちの大姑小姑たちに押しきられてしまった。 |