死に方・辞めかた・別れ方  邱永漢

去り際の美学

第16回
披露宴で先ず戸惑うこと

結婚式は両家の親戚縁者が参加するだけだから、
何式であろうと、少々失敗があろうと、我慢ができるが、
結婚披露ともなると、招待されるチャンスも多いし、
時間も長くかかるから、あまり無神経な演出だと、
つい不愉快な思いをさせられることがある。

披露宴に出て先ず戸惑うのは、席順であろう。
座席については、立食パーティ以外、
必ず上下の違いが生じてくる。

披露宴の場合は、新郎新婦、仲人がいわゆる雛壇に坐るが、
雛壇に一番近い、新郎新婦のよく見えるところが
一番上座ということになっている。

上席のテーブルのすぐ隣と同じくすぐ後ろがその次、
以下同様という順になっている。
従ってパーティを主催する両家の父母が
それぞれ両方の一番はじの、
つまり末席に坐るのが日本のしきたりになっている。

日木ではこれが当り前になっているが、
中国へ行くと、両家の父母は新郎新婦、
証婚人(媒酌人にあたる)と同じ円卓につく。

両家の父母は、その日の主役である新郎新婦の目上であり、
両家が親戚になる日であるから、
両家の父母、兄弟が同じ席につくのは
礼にかなったことと考えられるであろう。

このことは、考え方の問題であり、
どちらに坐ろうとかまわないと思うが、
来客の席順をきめるとなると、途端に頭が痛くなる。

世の中には、
自分を社会的に上位にあると思い込んでいる人がある。
また主催者側がこの人はお世話になった人だから、
ぜひ上座に坐ってもらいたいと思っている人もある。
しかし、上座に坐らせたいと思っても、
もっと上座に坐らせなければならない人が多いことがあるし、
自分では上座に坐って当然と思っても、
世間がそう思ってくれない人もある。

一般に、政治家と学者は自分を過大評価する傾向があり、
座席を自分の意に充たないところにつくられると、
不機嫌さをかくしきれない人もある。

しかし、スピーチをしてもらっても、
政治家と学者は共通して面白くないことが多いし、
殊に政治家は冠婚葬祭ずれが激しく、
自分のスピーチが終るやいなや、
さっさと退席する人が多いから、
うっかりメイン・テーブルに政治家の席をつくると、
宴なかばにして、メイン・テーブルがガラ空きになる心配がある。

いずれにしても、上座と下座があって、
すべての人を上座につかせることが不可能である以上、
席順に対する不満が残ることは避けられないと
覚悟しなければならない。

商売人は、その点、よく心得ており、
他人に譲ることになれているので、
こちらもそのわけ知りのところに乗じてしまうことになる。





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2012年12月7日(金)

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