第100回
クーデター前夜
私達がガンビア人に取り囲まれても恐怖を感じなかったのは、
この国が観光で成り立っている国だったからです。
それに、このあたりの人は奴隷として使われていたぐらい、
昔から温和だったと聞いていました。
適不適があるので、
誰でもアメリカにさらっていけば奴隷として使える、
というものではなかったようです。
テレビドラマになった
「ルーツ」を書いたアメリカ黒人が探し当てたのは、
この国から拉致されたクンタ・キンテという人でした。
ガンビアは最貧国のグループに属していて、
産業もほとんど発達していませんでした。
国の道路もまっすぐにただ一本短い距離が舗装してあるだけで、
あとは赤いむき出しの土の道でした。
そんな国にもなんとゴルフ場がありました。
ホテルから出ると垣で囲まれた小さな丘が毎日目に入ります。
それがゴルフ場でしたが、
暑いせいか私が見た時は一度もプレーをしていませんでした。
毎週木曜日は大統領の日とかで、
一般の人は締め出して大統領はゴルフ三昧とのことでした。
政府の権威の確立されていない国では、
権威付ける為には必要なことなのか、と
暑さでボンヤリした頭で考えました。
日本で明治の初めに大久保利通というパイオニアが、
出来たばかりの政府を苦労して育てた頃と同じなのでしょうか。
彼も権威づけるためにも色々苦心したらしいです。
天皇の権威を大きく見せる工夫をして、
ついでにその威を政府も借りようとしたようにも見えます。
利通の庭に植える巨木を
相当な「無理を通して運んだ」という話も読みました。
「こんなに権勢があるんだぞ」と
はったりをかませる効果はあったのでしょうが、
こういう人は日本では人気は出ないです。
国民が嫉妬するとか、
「はしたない」と思うか「たいしたもんだ」と感心するか、
利通の思惑通り権威を感じるか・・・。
色々ではあったのでしょうが、それも覚悟の上でしょうね。
山口瞳という作家がいつか、
観光バスの運転手達の会話について週刊誌に書いていました。
「今日は高校生だからバカにされないように
立派な服装にしなくちゃあ」
と耳にして山口瞳は“成る程そういうものか”と思ったそうです。
“新興国のリーダーもまず格好とはったりなんだ”と、
“成る程そういうものか・・・なあ?”と、
そんなことを思ってデンマークに帰ったのです。
それから時を経ずして
ガンビアにクーデターが起こって驚きました。
ボンヤリの私達には旅行中はそんな気配は感じられませんでした。
「成る程ツーリストなんかには何も解らないものだなあ」
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