前川正博さんはこうして
福祉の国で、国にたよらずに根をおろしました

第44回
野外芸人団

コペンハーゲンの街頭の芸人とは別ですがパリの出来事です。
久しぶりにパリに来て地下鉄に乗っていると、
一人の痩せた若者が乗り込んできました。
片足を大きく引き摺っていて、背中も曲がって苦しそうです。
その青年は片手を伸ばして口上を並べ始めて、
それが終わるとお金を集めて回りました。
中年以上の女性はけっこう小銭を渡しています。
妻は「私達もあげましょうよ」と言いますが、
私はどうも気が進みません。
動きがぎこちなないのは当然なのですが、
そのぎこちなさも含めて全体が不自然なのです。
彼は一駅で電車を降て少し行くと、スタスタと歩いて行きました。

それから数日後に、別のメトロで別の若い男が、
まったく同じ歩き方と同じ動作でお金を集めていました。
これは誰か“名案”を思いついた人が始めて、
今メトロで流行している詐欺に違いありません。
こういうことを考えて思った通りになると面白いんでしょうね。
私はなにも気の付かない方ですが、
施設で障害のある人の介護もしてきたので
おかしいと感じたようです。
人の好意と身体障害をだしにはしていますが、
これなんかは詐欺としては割りと可愛気のある方です。

ミラノでメトロ乗り場へ下りるエスカレーターに乗った時に
新しい手口に出くわしました。
私が車の付いた大きなトランクを前にして立つと、
前にお爺さんが立っていました。
お爺さんはエスカレーターの最後のところで
小銭を落としてバタバタと非常に慌てて体を屈めました。
慌てるので拾えないままに下まで着いてしまいましたが、
最後の段で転がるコインが拾えずにまだバタバタしています。
このままではぶつかるので、
私は慌ててトランクを持ち上げて上の段に登ろうとしました。
すると後ろから誰かがぶつかってきて、
一瞬お尻の辺りがくすぐったくなりました。
私は反射的に体をねじりました。
私のジーパンのポケットから財布が覗いていたのです。

後ろには若い男がいて
「何だか、かんだか」と叫びました。
「爺さんにぶつかるじゃないか」とか何とか言ったのだと思います。
振り返るとお爺さんはこちらから目を逸らして、
そそくさとと去って行きました。
コインをあっさり諦めて逃げるように消えるとは、
これは若いのとグルだと感づきました。
若い方もまだこちらを見て「ブツクサ」と言いながら
別の方向に去って行きました。
エスカレーターにはお爺さんの落としたコインが、
まだコトン、コトンと音を立てていました。


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2004年9月16日(木)

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