前川正博さんはこうして
福祉の国で、国にたよらずに根をおろしました

第39回
投げる実習生

デンマークの学校では義務教育の卒業が近くなると
二週間の職場実習があります。
自分が将来働いてみたい職種の仕事場に実習願いを出すのです。
その職場が受け入れてくれれば二週間、
働いたり見学したりして学校にレポートを出します。
私が知的障害者の施設で働いていた頃も
生徒がたくさんやってきました。
私はその頃は若かったので取っ付き易かったらしくて、
話しをする機会はよくありました。
先輩から聞いて
「実習中は何にも仕事をしなくてよいからここを選んだ」
と言う子がいたりしましたが、
いつかそこで働きたいという生徒は少なかったようです。
実習を只働きと理解して
「自分は社会に利用されたくない」と話す学生もいました。
働いている側からすると、
例え働いてくれても役に立つよりは多少なりとも邪魔なのです。
何にもしないでただ腕組みして時間を潰して
「利用されたくない」には驚きました。
でも見るだけでも将来の仕事を選ぶ時の参考にはなります。
こういうシステムが日本にあったら私は喜んで利用したと思います。

写真屋を始めると店にも実習生がやって来ました。
前の職場と違うのは
本気で写真関係の仕事に就きたい生徒が多い事でした。
でも
「写真家になりたいが、
スタジオでは実習生を入れてくれないのでここに来た」
というのが多数でした。
それでもみんな興味を持って
お客の相手をしたりプリントの機械に触ったりしていました。
こちらとしては本当は
お客さんのフィルムもプリントの機械も触られたくないのです。
でもその為に来ているのだから
横に付いて扱い方を丁寧に教えて、
その結果もコントロールしました。

最初にやって来たクリスタルという女の子は慌て者でした。
色々間違えて大笑いしましたが、
笑ってばかりいられないこともありました。
お客さんから預かったフィルムを
そのままゴミ箱に放り投げる癖があったのです。
その度に気付けばよいのですが、
店じまいの時に持ち主の解らないフィルムが
二、三本ゴミ箱にころがってたりしました。
一応現像をしておいて
写真の見つからないお客さんに見てもらえば何とか解決します。
でも見落としてゴミと一緒に捨ててしまっては大変です。
その子のいる間はまったく緊張しました。
幸いそれ以降はそんな大変な子は来ませんでした。


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2004年9月9日(木)

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