第9回
マシンが店にやって来る
店の壁を自分達で塗って、
フェルト屋さんからもらった
古いカウンターもペンキで塗りました。
その上にこれまたフェルト屋さんの
古くてでっかい手回しのキャッシャーを置くと、
どことなく垢抜けないみすぼらしい店ができあがりました。
これで大丈夫でしょうか?
お金を使いたくないので、
全部自分たちでやってしまったのです。
店のロゴは
その頃コペンハーゲンのデパートの
ショーウィンドウのディスプレイを担当していた友人に頼みました。
彼はのちにデンマークのおもちゃ会社LEGOの
デザイナーになりました。
明日はロンドンから技術者も来てくれるという日に、
ギリギリのスケジュールで機械が日本から到着しました。
日本に予約してあった機械は他の店に売ってしまったとかで、
その次に出来た機械は
船では間に合わないので飛行機で運ばれてきたそうです。
500キロもあるからさぞかし運賃がかかった事でしょう。
店まで運んできた運送屋はデンマーク人の大男でしたが、
何とたった二人しかいません。
その二人の筋肉モリモリのゴリラマンが
肩に皮ベルトを掛けて500キロを
「どっこいしょ」と持ち上げました。
さあそれから、そろそろと階段を降りたのですが、
中ほどでゴリッと音がして身動きが取れなくなりました。
「入らないっ!!」のです。
階段の途中の天井に微かにつっかえているのです。
N君は「今日はもうだめだ」と諦めたそうです。
彼は元々諦めがいいんです。
私はハンマーで機械の上部を叩いて凹ませて
なんとか通るようにしました。
新品の機械が店に入るまえに傷物になってしまいましたが、
何とか入りました。
機械が入るとそのあたりだけは
いかにも「時代の先端を行く店」という感じになりました。
技術屋さんもやって来て機械の設置は2日かかって終わりました。
試し運転をしていると
お客の第一号がやって来てフィルムを置いていきました。
嬉しくて胸がどきどきしました。
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