服飾評論家・出石尚三さんが
男の美学をダンディーに語ります

第986回
幸運のマンディ・パース

聖木曜日を知っていますか。
キリスト教文化圏では聖金曜日の前日を、
聖木曜日といいます。
“マンディ・サーズディ”
またの名を「洗足木曜日」とも。
これはキリストが受難の前日、
恵まれない人の足を洗ったことに由来しています。
イギリスではこのマンディ・サーズディには
国王が老齢者などにお金を分け与える習慣があります。
なんでもエドワード三世の時代、
1368年にはじまったそうですから、古い。

英国ではこの日のために
特別のペニー銀貨が鋳造され、
国王の年齢の数だけのペニーが
与えられるとのことです。
そこでこのお金のことを
“マンディ・ペニー”と呼ぶのです。
日本でもなにか日を決めて、
年に一回、首相が恵まれない人々に
お金を分け与えることをしても
良いのではないでしょうか。

それはともかく
マンディ・ペニーを入れるための
特別のパースがあります。
つまりコイン・ケースですね。
この小銭入れは伝統的に、
赤と白のやわらかいレザーで作られるのです。
赤い革には白の革紐、
白い革には赤の革紐が通してあります。
このパースを作る店もちゃんと決っていて、
ロンドンの「バロウ・ヘップバーン」が
英国王室御用達となっています。

では、マンディ・ペニー用のパースは
いったいどんなデザインなのか。
それはごく単純なポーチ型なのです。
700年前からほとんど変っていないのでしょうから、
それも当然でしょう。
両端を縫って、口もとに紐を通しただけのポーチ。
革紐を口を結べば、
持ち運びにも便利というわけです。
むかしむかし“オーモニエール”という
古代の財布があったのですが、
ちょっとそれに似ています。
ということは現代の財布の起源の
ひとつであるのかも知れません。

赤か白の、革を探して、
自分で作ってみるのも
ひとつの方法ではないでしょうか。
そしてすでにお話したように、
赤には白の、白には赤の紐を通す。
自分専用のマンディ・ペニー用のパースが完成です。
赤と白なら縁起もので、
お金がたくさん集まってきそうではありませんか。


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