服飾評論家・出石尚三さんが
男の美学をダンディーに語ります

第969回
“サー”か「様」で呼ばれるために

“サー”の敬称つきで
呼ばれたことがありますか。
もちろん私ごときがあるはずも・・・。
でも、もしもそんなふうに呼ばれたなら、
さぞかし気持の良いことでしょう。
たとえば外国なんかで
“グッド・モーニング”と声をかけられるのと、
“グッド・モーニング・サー!”とでは
かなり違う。
いや、気持の上では決定的な違いがあります。

けれどもここで考えてみたいのは、
敬称としての“サー”。
英国では準男爵かナイトの称号を持つ人物には
“サー”をつけて呼ぶのだそうです。
たとえばジョージ・ブッシュが
バロネット(準男爵)であったとして、
“サー・ジョージ”と呼びかける。
“サー・ブッシュ”とは言わないのだそうです。
“サー”の敬称もなかなか難しいようですね。

ところで英国の“サー”に変わる日本語は
なにかないものでしょうか。
国が違い、文化が違うのですから、
そう簡単に置き換えることはできないでしょう。
が、すぐに思いつくのは「殿」でしょうか。
ジョージ・ブッシュ殿と呼びかけるのも
ひとつの方法です。
「閣下」は少し大げさ、
「先生」は少し月並、
「旦那」は少しくだけすぎ。

そうなるとやはり
「様(さま)」ではないでしょうか。
なにも特別な言葉ではありません。
手紙の時にはたいてい
「ジョージ・ブッシュ様」と書くではありませんか。
一方、ふり返って「様(さま)」と呼ばれて
気を悪くすることはない。
たとえば自分が本当に、
心から尊敬する人物に電話をかける場合、
「――様(さま)をお願いします」
と言って問題ないでしょう。
「――さん」というよりもはるかに
「――様」といったほうが丁寧だと思います。

そうであるなら、
直接その人物を呼びかける場合にも
「――様」は使えるのではないでしょうか。
もし外国で“サー・――”と呼ばれて
しかるべき人物であれば、なおさらのことです。
少なくともいつでも「――様」と使える用意をしておく。
あとは「様」と呼ぶにふさわしい人物と
より多く出会える機会をふやすことです。


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