服飾評論家・出石尚三さんが
男の美学をダンディーに語ります

第947回
お金持ちのおしゃれの仕方

時にはネクタイ・ピンをすることがありますか。
今はむしろネクタイ留めの類いは
使わないのが主流になっています。
けれども私としては
むかしのネクタイ・ピンが復活しないものかと、
期待しているからです。

ネクタイ・ピンと
タイ・タックが別物であるのは、ご存じの通り。
タイ・タックは針の長さが
1、2センチと短いものですが、
ネクタイ・ピンは長い。
だいたい5、6センチはあります。
かつてはこれを
アスコット・タイなどに挿したものです。

1870年代に
ニッシム伯爵という洒落者がいたのだそうです。
そしてこの人物が
たいへんにネクタイ・ピンに凝った。
たとえばゴールドのドラゴンが、
その爪先で大きなエメラルドが支えている図柄の
ネクタイ・ピンを作らせたりした。
他にもダイヤモンドやルビーをふんだんに使った
豪奢なネクタイ・ピンを数多く注文した。

このニッシム伯爵の
すばらしいネクタイ・ピンの
ほとんどを手がけたのが、
今もヴァレドーム広場にあるブシュロン。
もちろん初代のフレデリック・ブシュロン
(1902年没)の時代です。
ついでながらブシュロン(創業は1858年)が
ヴァンドーム広場に店を移したのが、1893年。
これがひとつのきっかけとなって、
数多くの宝飾店が軒を並べるようになったのです。

それはともかく、
ニッシム伯爵の美事なネクタイ・ピンは
今も語り草になっているとのこと。
お金持ちはこのように有効にお金を使うことで、
芸術もまたより美しく磨き澄まされてゆくのです。
と同時に、男のファッションのなかで、
いくら大枚をはたいても
決して嫌味にならない
ほとんど唯一のアクセサリーが、
ネクタイ・ピンではないでしょうか。
自動車1台分くらいのルビーや
サファイアのネクタイ・ピンであったとしても、
それは上品で、優雅というものです。―
だから、というわけではありませんが、
もう一度ネクタイ・ピンのおしゃれを
復活させようではありませんか。


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